FT記事:
Oaktree-backed 17Capital raises $2.9bn credit fund for private equity industryより
私のセンサーがプライベート・クレジットに振れているようでして、FT紙面(旧人類ですので、今だに紙で購読中です笑)を眺めていると、ついこうした話題に反応してしまいます。
本日の話題は”Net asset value lender“の話題です。
前回の話題もプライベート・クレジットでしたが、あちらはLBO向けローンファイナンスであり、企業買収向けの資金提供でありました。言い換えますと被買収企業資産が担保となる貸付ですので、与信の対象は単一の事業会社であります。レンダーの考え方は銀行の目線に近く、スポンサーが描く将来像(EBITDA)と担保価値を眺めながら、個別企業・事業に対してLTVと金利を設定するゲームと(極論すれば)単純化できるのではないでしょうか。
本日FTから取り上げた記事はPE/バイアウトの運用会社に”NAV”を目安に貸付を行う運用会社、つまりは個別企業の現金創出能力は全く気にせず、運用会社が保有する投資先ポートフォリオを一括評価して、そこにお金を貸し付けるレンダーが登場したというニュースです。つまりはプール型資産への与信ですね。
著名ファンドOaktreeが資本を持つ運用会社17Capitalですが、新しく$2.9bnのクレジット・ファンドの資金調達を完了し、NAVの20%までを目安にPE/バイアウト運用会社へ貸付を開始、9%程度のリターン目標でローンチしております。https://www.17capital.com/
注目すべきは「なぜこうしたNAVレンダーの需要があるのか」ですが、これが面白いんです。
PE/バイアウト運用会社にとって投資先のフォローオン投資に加えて、Co-investorの持分を買取ることで案件の主導権を高めたいというニーズがあり、その際にこちらの貸付を利用したいとの需要があるそう。
最近ではLP投資家に”お土産”として、共同投資の機会を提供する運用会社も多いと思いますが、確信度の高い案件になってくると、その持分さえ買い上げてしまいたくなるんですね。
Leverage is extremely efficient if it is used properly. If it is used properly, it is a really good thing.
こちらの17Capitalはすでに優先株に出資するファンドも運用しており、クレジットファンドと組み合わせるとNAVに対して50%まで貸し付ける機能を持つそうです。
これまでもCredit FacilityやSubscription Financeを使ったファンド向け融資手法がありましたが、両者とも短期的な資金ニーズに対応するものでした(除くPD)。一方、長期的な資金調達としては従来のLPを通じたエクイティ調達に加えて、銀行もしくはPDレンダーを活用した個別案件のローン・ファイナンスがあった訳です。
さらに最近では運用会社の株式を第三者に売却(GP Stake Sales)や保険会社を活用したデットファイナンスという新しい選択肢も増えてきていますが、これらはあくまで現状ポートフォリオ運用という”ひとつの階層”における資金調達手段だった訳です。
ここにきてNAVレンダーが出てきたということは、保有ポートフォリオという”階層”に対してレバレッジをかけることができる。つまりはポートフォリオの2乗の世界、”二層目”が出来たという事で2次元の世界から、3次元の世界にリターンの源泉を拡張できるキッカケが出来るかもしれないと思うんです。
この発想を浮かべるたびに、私はGFC前の経験を思い出します。クレジット市場という2次元の世界に登場したCDOというプール型資産。それが”CDOスクエア”もしくはCDO of CDOという拡張を経てリターンが3次元の世界に拡大していきました。そしてその最後は・・・・
これは私の杞憂かと思います。人類は学ぶ事で成長を続けてきました。しかしながら”歴史は繰り返す”という言葉も忘れずにいたいと思います。
それでは今週もご自愛ください