LDIという名の脆弱性

足元の経済混乱を受けて、イギリス新政権が打ち出した減税+エネルギー購入補助パッケージの組み合わせですが、いきなり波乱の様相を見せております。

参考記事:

FT記事:Pension fund strains trigger BoE bonds intervention

FT記事:UK pensions: liability drive

FT記事: Pension scheme sell assets and tap backers in rush for cash


控えめに表現しても”大波乱”でございます。BoEが慌てて債券の買取に入ったのですが、なぜこれ程までに市場が混乱したかご存じでしょうか。

今回の火元はLDIです。ここでパッと分かる方はかなりの年金通とお見受けいたします。LDI=Liabilty Driven Investment、負債主導型の投資とでも訳しましょうか。

こちらはイギリスの確定給付型の年金基金が多く取り入れているヘッジ戦略でして、金利の低下局面=年金債務の増加をヘッジする金利・為替スワップを中心とした取引を指します。簡単に言うと、金利水準に関係なく資産を債務とマッチさせるデリバティブ取引ですね。今回はそこが火を吹きました。

普通に考えれば金利が上昇すれば年金債務が軽くなりますので、長い債務デュレーションを抱える年金にとって良きことかな、ということになりますが、今回の問題は「変動の速さ」にあったのです

LDIをアウトライトもしくはオーバーレイのような形でスワップ契約だけで構成する場合は、当然ながら日々のMTM変動に対応して担保を差し入れます。今回は金利が急騰したため、金利上昇=担保債券価値の低下につながり、追加の差し入れ=マージンコールがかかった事から事態が急転します。

FT報道によりますと英国の年金基金の大層を占める5,200基金がLDIを導入しており、£1.7兆と推定されるマーケットの中でも大きな部分を占めていると思われます。それが30年ぶりの金利急騰を目の当たりにしたものですから、あちこちからマージンコールの嵐が起こり、現金が足りないため更に債券を売却するという負のスパイラルが加速し、市場が売り一色となる大混乱が発生しました。文字通り強制売却の嵐が起こり、市場変動が拡大した訳です。

1.63%もの金利急騰はこれまでにない事であり、まさに「ブラックスワン」の再来です。


ちょっとちょっと、それじゃ日本は大丈夫なの?との疑問が湧いて参りますが、私が知るところでは我が国ではLDI導入事例は少なく、年金財政についても資産超過先が多いですし、万一の場合は母体企業からの追加出資で不足部分を賄うのが殆どの事例と理解しており、我が国で金利が急騰しても英国のような事例は起こりづらいと思います。そもそも目標利回りがインフレ連動になってないですしね(すいません、間違っていたら教えてください汗)

さて、これまでは次の火元はプライベート・アセットと言われ続けてきたそんな中で、意外な所から金融システムが脆弱性を露呈しました。あくまで一国の制度上の問題である、という整理もできますが、世界的な金利上昇期は本当に久しぶりですし、予期せぬイベントにぶつかることがある、そう考えると改めて世界は複雑性に満ち溢れていると思うです。

そして、更にこの週末は某CS社について多くの報道がなされていますが、GFCを経て導入されたベイル・インのシステムがどう作動するのか。杞憂に過ぎないかもしれませんが、万が一の場合は壮大な社会実験が起こります。そしてうまく作動しない場合は・・・金融機関の資本脆弱性に再び注目があつまって・・、いやさすがにそれは心配のし過ぎでしょう。

脅かしてごめんなさい笑。どうか今週もご自愛ください。

関連ブログ