先日来相場を動かしてきたLDI関連の続報がFT紙上でも目立ちますが、10月8/9日付の特集記事でも新たな発見がございました。
FT記事:Managers search their souls after LDI debacleより
すでに£1兆相当がLDIの対象となっているという英国年金市場ですが、9月23日の新しい景気刺激策に端を発したギルト債の価格低下から騒動が起こったのはご存じの通りです。本来ならば年金債務の減少という事で長期金利の上昇はプラスの効果を生じるはずですが、GFC以降、金利が下がる一方だった市場=年金債務の増大に対して威力を発揮してきたのがLDIでも有りました。
LDIを採用していないスポンサー=母体企業は絶え間ない債務の増加に追加資金を提供せざるを得ず、これまでの企業破綻の要因の一つ、という見方さえあり(Carillion•Arcadia Groupなどの事例)「LDIを採用しない手はないでしょう」というトレンドが英国年金界で醸成されていたように思います。
そこにきて今回の連鎖反応が起こった。結果として債券市場では「4日連続でブラックスワンが観測された」という異常事態に。「このような流動性枯渇はどんなモデルにも織り込みようがない」というコメントも掲載されています。
そもそも始まりは2000年の企業財務会計基準の変更にありました。年金資産の積立不足を母体企業のバランスシートで即時認識する事から始まります。それ以来M&G、Insight、Blackrock、Schrodersといった運用会社を中心に、年率10−20bpsというお手軽なフィーで全体の8−9割の負債をカバーするLDIを提供するようになっています。
特に規模の小さい年金ではプール型と呼ばれる、複数の年金が集まって一つのLDIを設定するという事例も多くあるそうです。今回はこのプール型で特に大きな動き=資産売却が目立ったそう。迅速な動きができないプール型LDI加入年金に対しては、LDIを受託している運用会社が「多めにキャッシュを保持するよう」求めた事があり、資産の叩き売りに繋がったと考えられます。
長い目で見るとLDIは英国の年金制度と企業を救ってきた。運用会社はそう述べていますし、おそらくそれは正しいのでしょう。LGIMによれば「初期的な反応を探っている段階だが、当社顧客のほとんどはLDIの比率を維持しながら、拠出担保を増やそうとしている」という事で、LDIに対する信頼と必要性への認識は崩れていない様子。
それでもGFC以降、金融システムの中で醸成されてきたリスクが急激な金利上昇を通じて炙り出されてきた。意外な盲点に対してどのような対応をしていくのか。Brexitの際に解約が相次ぎGFC以来、初めてゲート条項を発動した不動産ファンドもあったかと思いますが、今回の資産売却の波はそれを遥かに上回ると予想されます。プライベートアセットの世界でもオープンエンド型が普及する中で、多くの運用会社が流動性の存在証明を迫られるイベントでもあるかと思います。