難しいことを易しく要約できる能力というのは、ことSNSが発達した現代において必須スキルになっているような気がします。ただしそれは”本質を押さえているならば”という前提ありきかと思います。
自分もXやTiktok経由で情報を仕入れることが多いのですが、いつの間にか偏った(意図的か、意図的でないかは別として)情報に流され、本質を見失っていることに気づくことが増えてきました(特に世界情勢・市場関連の話題)。
そんな中で、知識と経験に裏付けされた、”本質を押さえた骨太のコラム”に出会うと、世の中にはやっぱりすごい人がたくさんいるんだな、と沢北に挑む流川のように微笑む自分がいるのです。
そこにFTコラムニストでも比較的重鎮では?と思っているJohn Plender氏が世の中を俯瞰するコラムを書いてくれました。自分もこんなコラムを書けるようになりたい(しかも英語で)、そう思わせる視座の高さであります。
FT記事:The risks of radical accounting changesより
会計がなぜ重要かというと、少なくともそれが人々の行動を左右するからである。こと選挙と政治的転換の年になると、政策に対して極めて誤解を招くようなシグナルを送っていることを指摘することは価値があると言っておきたい。
まず、中央銀行の財務について考えてみよう。中央銀行は、2007~09年の金融危機後やパンデミック時にいわゆる量的緩和によって購入した資産に損失を出している。時価評価ベースでは、多くの銀行が自己資本をマイナスにしており、実質的に債務超過に陥ってもいる。
これは一見恐ろしく聞こえる。しかし、中央銀行のバランスシートには、中央銀行の最も貴重な資産である通貨発行益(シニョレッジ)を除外しているため、そんな摩訶不思議な状態が許されていいのだ。中央銀行が債務超過に陥るのは、自己資本の減少が将来の通貨発行益の正味現在価値よりも大きい場合だけである。
今日の先進国では、このようなことはありえない。私たちがここで話しているのは、貨幣を作り出す独占権を持ち、政府の後ろ盾があり、破産手続きから保護されている公的機関についてである。例えばイングランド銀行のように、QE購入による損失に対して政府が全額補償するケースもあるということだ。
しかも、国際決済銀行のエコノミストたちは、中央銀行のエクイティ・バッファとその後のインフレとの間に系統的な関係があることを示す証拠はほとんどないと考えている。実際、メキシコ、チリ、イスラエル、チェコ共和国の中央銀行は、政策に失敗することなく、長期にわたって自己資本をマイナスにしてきた。
ただし一言付け加えておくと、(世間の)認識に関するものである。ミルトン・フリードマンとアンナ・シュワルツは、有名な米国の金融史の中で、連邦準備制度理事会(FRB)が自らの純資産に配慮することで、1930年代の恐慌に対して、より積極的な対応ができたこと示している。(久我:規律を保っているというアピールは依然として重要ってことかと思います)
今日の状況においては、短期的な中央銀行の損失は長期的な公的債務の持続可能性に関する判断に影響を与えるけども、その損失が経済全体の所得を増やし、税基盤を拡大するために生じていることを忘れてしまうことに他ならない。中略
こんなことを踏まえても、中央銀行の会計資本は一般に、政策の有効性と支払能力を評価するための指針としては不十分であると言わざるを得ないだろう。
次に年金に目を向けると、会計基準の変更によって産業全体の構造がどのように損なわれ、経済に不利益をもたらすかを示した極端な例がある。1990年代、英国の会計基準策定者は、年金基金の黒字と赤字を母体企業の貸借対照表に計上することを決定した。これを踏まえて財務責任者は、確定給付型年金制度を新規加入者向けには閉鎖することで対応し、受託者は負債主導型投資に頼ることで基金の(母体に与える)リスクを取り除こうとした。こうして誕生したLDIファンドは、主に英国債など、年金支出に見合ったキャッシュフローを生み出す資産に投資していた。
重要な資産である年金制度の赤字を補填するのがスポンサー企業の保証であるはずが、年金基金の勘定に計上されないため、こうしたリスク回避の動きが嫌でも高まった。さらに規制当局にも影響を及ぼし、雇用主の破綻を何としても防ぎ、雇用主の破綻から国のバックアップである年金保護基金を守ろうとする動きが加速する。つまりは規制当局は、ギルトのリターンが乏しいときに、(スポンサーから年金の出資を増加させ)LDIが採用されるように受託者に圧力をかけたのだ。
こうして企業は、本来であれば実体経済への投資に使われるはずの現金を年金基金に投入せざるを得なくなった。年金基金の株式保有はゼロに近かった。また、ギルトのリターンは悲惨なものであったため、年金基金はリターンを高めるために負債を抱えた。その結果、年金基金はシステミック・リスクをもたらすようになり、2022年のギルト市場危機は、金利の急上昇と担保請求によって、過大な借り入れをした基金が不意を突かれる問題が発生した。
中略
より広範な教訓は、政策立案者、規制当局、投資家は、従来の会計と経済的現実との間にある欠落を痛感する必要があるということである。これは急進的な会計改革が、かならずしも意図しない結果を生むリスクを抱えるということに留意すべきだ。
それでは今週もご自愛ください