コロナ禍を経て一時的な高金利環境に移行したことで、借主と貸手の力学に大きな転換があったことをお感じかと思いますが、ここにきてまた新しい変節点を迎えているのでは?と感じています。
FRBやECBが利下げモードにシフトする中で、ベース金利が落ち着いてきた。そしてM&Aが活発になってくる。さらにリファイナンスも目白押し。そんな中でスプレッドも再びタイト化していくことは自明でありましょう。
言うなれば、再び借り手優位な世界がやってくるかも?と感じさせるのが本日ピックアップしたFT記事です。
これまで注目されていた「コベナンツ・ライト」「EBITDA Add-Back」に加えて新しいキーワードとなるのが「ハイウォーターEBITDA条項」。これは試験にでるかも?ですね笑。
FT記事:Private equity firm’s attempts to life payouts on loan deals receive pushback from lendersより
プライベートエクイティ企業は、買収した企業からより多額の配当金を受け取るための余地を持たせる条項を融資契約書に盛り込もうと積極的に動いており、これに対して貸し手から厳しい反発が起きている。
従来、融資契約書はプライベートエクイティ企業がポートフォリオ企業から引き出せる金額を厳格に制限していた。しかし、時間が経つにつれて、その固定額は柔軟になり、企業の収益の一定割合に基づいて決定されるようになった。
最近では、プライベートエクイティ企業はさらに一歩進めて、「ハイウォーターEBITDA条項」と呼ばれる条項を導入しようとしている。この条項は、企業が過去12か月間で達成した最高の収益を基準に、どれだけの借入が可能かや、オーナーに支払う配当金の額を決定するものとなっている。これにより、企業の収益がその後減少した場合でも、高収益時の基準で融資条件が設定されることになる。
KKR、Brookfield、Clayton, Dubilier & Rice、BDT & MSD Partnersの4社が、この条項を融資契約書に盛り込もうとしていることが、事情に詳しい者によって明らかにされている。4社ともコメントは拒否している。
この条項は、貸し手から強い反発を受け、ほとんどのケースで最終的には融資契約書から削除されている。しかし、プライベートエクイティが支援する企業がこの条項の導入を試み続けているため、貸し手の中には、競合する債権者がこの条項を受け入れてしまうのではないかと懸念する者もいる。
省略
「これは非常に攻撃的な条項である」とある債権者は述べている。「今このタイミングで、この条項をさらに押し進めるのは厳しい。」
この条項が試されている事実は、融資市場、特にプライベートエクイティの買収に必要な重要な資金源である融資市場における潜在的な不均衡を示している。2021年のピークから買収件数が減少しているため、投資家は資金を分散させる新しい案件が少なく、一部の融資に対して競争が激化している。
「強い市場においては、こうした条項に対して反論するのは通常難しい」と、Instructureの資金調達に関わった銀行員は述べている。しかし、彼は「これらの条項は生き残らない」と付け加えている。
この条項は、商業用ランドリー事業のための21億ドルの融資契約に少なくとも一度は盛り込まれたことが、事情に詳しい2人によって確認されている。この企業は、BDT & MSDに8億9,000万ドルの配当を支払うために融資の一部を使用する計画であると、S&P GlobalおよびMoody’sが報じている。
この条項には「借り手は、EBITDAが最高額に達したテスト期間後のいかなる期間においても、その最高額を基準とみなすことができる…その後のEBITDAの減少にかかわらず」と記載されていることが、Financial Timesが確認した文書で明らかになっている。
「交渉でこの条項を要求しなければ、自分の仕事をしていなかったことになる」と、あるプライベートエクイティの幹部は述べている。「企業に最大限の柔軟性を与えることが常に望ましいのである。」
この「ハイウォーター」コンセプトは、欧州のレバレッジド・ファイナンス市場では非常に稀である。だが一部のバンカーや弁護士は、このアイデア広がっていくことを危惧している。
それでは今週もご自愛ください。