果てなき野望:CEOの必須アイテムなのか

起業を経験された方なら誰しも一度は直面するジレンマがあるのではないでしょうか。それは、会社が成長すればするほど、仕事が加速度的に増えていくという現実です。

そのジレンマを回避するために、あえて「ステイ・スモール(小規模にとどまる)」という選択肢を取ることもできます。しかしその場合、社会へのインパクトは限定的なままに留まりがちです。一方で、上場すれば否応なく成長のプレッシャーに晒されることになります。

だからこそ、経営者として「より大きな複雑性に挑み続ける」覚悟を持ち続けること」こそが、上場企業のCEOに求められる最も重要な資質なのかもしれません。そんなことを、記事を読みながら感じた次第です。

業界最大手(あくまでAUMベースですが)であるブラックロックは、プライベート市場においても覇権を握るべく、さらなる野望を掲げています。今後5年で約60兆円の資金を獲得し、時価総額を倍増させるという大胆な計画です。

総帥ラリー・フィンク氏の言葉を目にしながら、「やはり自分には巨大企業のCEOは向いていないな……」とため息をつくと同時に、自分は「ステイ・スモール」でいよう、と再確認する週末となりました。


FT記事:BlackRock sets $400bn fundraising target to take on private capital giantsより

ブラックロックは、プライベート投資事業において4,000億ドル(約60兆円)の資金調達目標を掲げた。これは、同社が2030年までに世界最大の資産運用会社としての時価総額をほぼ倍増させるという野心的な計画の一環として、経営陣が示した方針である。

2030年に向けた目標は、ブラックロックおよび最高経営責任者ラリー・フィンクが、ブラックストーン、アポロ・グローバル・マネジメント、KKRといったオルタナティブ資産運用の巨頭と競争すべく、事業を構築していく意図を示すものである。

ブラックロックは昨年、グローバル・インフラストラクチャー・パートナーズ(GIP)、クレジット投資会社HPSインベストメント・パートナーズ、並びにプライベートファンドのデータプロバイダーであるプレキンを、立て続けに約280億ドルで買収することに合意した。これは、同社を公開市場中心の事業モデルから転換させるというフィンクの戦略に基づくものである。

フィンクは投資家に対し、2009年にバークレイズ・グローバル・インベスターズを買収して以降、「十分にM&Aを活用してこなかった」と述懐した。同買収により、ブラックロックはiSharesというETFプラットフォームを手に入れ、世界最大の資産運用会社となった経緯がある。

フィンク曰く、「戦略的買収は当社を強化し、より良き企業文化を築き上げてきた。優秀な人材の獲得にも寄与した。我々の買収が成功を収めてきた理由は、組織の統合に対する揺るぎないコミットメントに他ならない」とのことである。

GIPは新たな体制下で既に積極的な動きを見せており、2025年3月にはパナマ運河の両岸に位置する2港を含む多数の港湾を、総額228億ドルで買収する契約を締結したほか、マイクロソフトと連携して300億ドル規模のAI投資ファンドを設立する計画も発表した。HPSの買収は2025年7月に完了予定である。

フィンクは、ブラックロックの顧客がますますプライベート市場を志向していると述べ、同社が業界のトッププレイヤーを買収することで競争に臨む決断を下したと明らかにした。

最高執行責任者ロブ・ゴールドスタインは、「ブラックロックが時代を先導し、不断の変革を遂げることが我々の使命である」と述べ、「顧客に対するサービスの基盤を構築するために投資してきた。今回の三件の買収は、まさにゲームチェンジャーである」と語った。

同社は、2030年までに年間売上高が350億ドルを超える可能性があると見込み、年平均で約10%の成長を見込んでいる。

この成長の多くは、プライベート投資およびテクノロジー部門によって支えられる見通しである。最高財務責任者マーティン・スモールは、公開市場ファンドからプライベート投資戦略へと顧客資産の一部を移すだけで、基本報酬収入が10億ドル増加する可能性があると述べた。

ブラックロックは、2030年までに収益の30%以上がこれらの分野から生み出されると予想しており、これは2024年末時点の15%から大幅な増加となる。また、プライベート投資部門の新たな資金調達目標は、2025年から2030年の6年間で、年間平均650億ドルとなる計算である。

ニューヨークに本社を置く同社はまた、調整後営業利益目標を150億ドルとし、現在の時価総額1,540億ドルを2030年までに2,800億ドルまで引き上げる可能性があると述べた。

フィンク氏は、ブラックロック共同創業者ロブ・カピート氏および取締役会と協力し、資産運用会社としての次世代リーダーシップ体制を構築することが自身の最重要課題の一つであると語った。ブラックロックでは近年、マーク・ウィードマン氏(米銀PNCに転職)やサリム・ラムジ氏(現在は競合バンガードのCEOに就任)など、複数の幹部が退任している。

「私は当面、ブラックロックを離れるつもりはない」とフィンク氏は付け加えた。


それでは今週もご自愛ください。

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