突然ですが、消費者と直接相対する小売ビジネスほど世相を移す鏡はないのでは?と思えます。
日本でも高島屋さんが業績見通しを下方修正。理由は海外からのインバウンド旅行者向けの売り上げがスローダウンしているから、という報道もありました。
一方の米国における小売ビジネスを振り返ってみると、日本以上に難しい状況が続いております。あれだけ大きな市場(かつ旅行者・ビジネス客も多い)であるのに、どうして小売業が低迷しているのか。
有名な百貨店Saksの不振から始まるニュースですが、市場を驚かせたのはシニアの上に、シニアを追加するという”屋上屋戦略”でありました。既存レンダーからすると、そんなのありかよ!と叫びが聞こえてくるディールを実行してしまった所に迷走ぶりを感じさせます。
全てはコベナンツが緩い案件組成からスタートした混乱かも知れません。それに知的財産や在庫担保などのABLレンダーが参加することで、シニアの上にシニアという混乱が起こる。プライベート・デット投資の有力ケーススタディとして本件に注目したいと思います。
FT記事:Saks divisive debt reshuffle shows a retail sector under strainより
休暇中の出費の失敗ほど共感できる話があるだろうか?昨年12月、米国の百貨店チェーンであるサックスは、ライバルのニーマン・マーカスを27億ドルで買収した。この取引の資金調達の一環として、サックスは22億ドルの社債を発行した。しかし、既に統合後の企業は、今週月曜日に支払期限を迎える1億2,000万ドルの利払いに苦しんでいる。
サックスの対応もまた共感を呼ぶものだった。さらなる借金である。金曜深夜、サックスは6億ドルの複雑な資金調達を発表し、これによって多少の猶予が生まれた。しかし、米国小売業界は低迷しており、窮地を脱しようとする中で、サックスは一部の債権者の怒りを買ってしまった。
通常、企業が資金を借り入れる場合、同じ種類の資本(たとえば同一の債券発行に参加した投資家)には平等に扱われるのが原則だ。しかしサックスは「分断して支配」する戦略を選んだ。過半数の債券保有者が新たな資金を提供することに同意したが、その見返りとして、彼らは会社の最上位債権者として扱われる債務を保有することになり、破産時に優先的な返済を受けられる。一部の既存債券もこの新しい上位債券に転換される。
一方、少数派の債権者は、既存の債券を保持したまま、返済順位が後回しになる。債務再編の世界では、こうした不平等な扱いを「債権者同士の暴力(creditor-on-creditor violence)」と呼ぶ。
サックスは、おそらく最終的にはこうした摩擦に価値があると踏んでいるのだろう。この取引は、サックスの億万長者オーナーであるリチャード・ベイカーにとっては有利だ。というのも、再編によって破産を回避できれば、彼の株式は無価値にならずに済むからだ。ベイカーはすでに多忙で、カナダの百貨店業者ハドソンズ・ベイのオーナーでもあり、こちらも破産手続き中である。
赤字経営のサックスは、コスト削減と各種会計調整によって、2026年には10億ドルのEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)を達成できると見込んでいる。これは、高級ブランドのライバルであるノードストロームが最近買収された際の評価倍率を用いると、企業価値が約60億ドルに相当する。しかし、グループ全体で50億ドルを超える負債があるため、この楽観的な見通しでも株式の価値はほとんど残らない。
小売業界では、知的財産、不動産、在庫などを担保にして資金調達を行う「先延ばし策」が頻繁に見られる。それでもなお、このセクターの貸し手は痛手を負う。フィッチ・レーティングスの分析によると、最近の小売業者の破産79件のうち34件が再建ではなく清算に終わっており、これは全業界平均の約4倍の割合である。
サックスが債権者同士を争わせることができるのは、同社の社債が緩い条件で発行されたためでもある。こうしたことは、市場に油断が広がっている時期に資金調達が行われるとよくあることだ。結果として、借り手は破産を避けるために様々な手段に訴えるインセンティブを持つことになる。しかし、どんなクレジットによるホリデー散財でも、いずれは請求書がやってくる。サックスの次の利払いは6カ月後。どうやら、あまり楽しくないクリスマスが待っていそうだ。
それでは今週もご自愛ください。