毎週コラムを書いていると自分の”ニュース感度”の振れや変動に気付かされます。、これも、あれも!とネタが見つかる週と、なんかあまりピンとこないな・・・というような上下動の波です。その意味では今週は感度の高い週となりまして(きっと連休のお陰かも笑)、どれをお伝えしようかと悩むぐらいでした。
そこで今週は認識と最もギャップが大きかった”雇用”についての話題を取り上げます。え?そうなの?という軽い驚きから入るニュースは大学以上の学歴を持つ卒業生の”就職難”の話題。
好調が伝えられる米国経済においても、男性の高学歴新卒者の失業率が上がっている、という意外な話題なんです。
売り手市場とも言われる我が国の雇用・就職状況からしても意外な感じがありますが、さすがのFT。深掘りしてその理由を探ってくれています。記事を読む前に想像してみてください。なぜ高学歴者の失業が高くなるのでしょう??
FT記事:Rising graduate joblessness is mainly affecting men. Will that last?より
近年の大学卒業生の失業率の急増は、過去1年間で最も注目された経済トレンドの1つとなっている。アメリカからイギリス、さらには他国に至るまで、高学歴の若者たちの失業率が、記録上初めて全体の失業率を上回る事態となり、「大学教育の価値」から「AIの役割」まで、さまざまな疑問を投げかけている。
しかし、この目立つトレンドの背後には重要なニュアンスが隠されており、それを丁寧に読み解くことで、広く語られるストーリーの実態が見えてくる。
米国の月次雇用データを詳細に掘り下げると、まず注目すべきは、大学卒業者の失業率の上昇が、ほぼ完全にアメリカ人男性の若者に集中しているという事実である。
米国の最近の男性卒業生における失業率は、過去12か月で5%未満から7%へと急上昇している。一方、若年層の女性卒業生の失業率は同期間でほぼ変わらず、むしろやや低下傾向にある。
特に驚くべきは、大学を卒業したばかりの若年男性が、今や非大卒者と同じ失業率になっており、「大学卒の就職プレミアム」が完全に消滅していることである。
何が起きているのか?
一見すると、これはAIによる雇用喪失の波の先端に位置している、という仮説と一致しているように見える。生成AIの急速かつ積極的な導入によって、若年男性のコンピューターサイエンス卒業生がとりわけ影響を受けやすくなっており、そのためAIショックはまず男性卒業生に現れるはずだという論理だ。
だが、産業別の雇用動向に掘り下げてみると、こうしたストーリーとは合致しない証拠も見えてくる。米国で新卒のプログラマーやソフトウェア開発者の採用が縮小していたという話は多く取り上げられたが、ここ数か月でそれが急速に反転している。実際、生成AI導入前の時代と比べても、キャリア初期のコーディング職は経済全体を上回るペースで回復している。
これはつまり、2023年〜2024年のテック業界における新卒採用の落ち込みは、単純にAIによる雇用喪失ではなく、パンデミック後の急激な採用ブームの反動だった可能性があるということだ。現在、エントリーレベルのソフトウェア開発職の採用はその谷底から反発している。もちろん、これは「AIがコーディング職を奪っていない」という意味ではない。AIが古い職を消し去ると同時に、新たな職を創出している可能性もある、ということだ。
では、AIによるコンピューターサイエンス卒業生の“就職危機”ではないとすれば、何が原因なのか?
業界全体を見渡すと、主要なダイナミクスはお馴染みの構図にある。つまり、女性は圧倒的に医療系の職業を選ぶ傾向が強く、その分野では雇用が急増し続けており、景気変動に影響されやすい男性中心の業種とは対照的に安定している。
過去1年間で、米国の若年女性卒業生によって新たに就かれた135,000人分の雇用のうち、およそ50,000人分が医療業界に集中している。これは、同期間に男性卒業生がすべての業種で得た新規雇用数の2倍以上にあたる。高齢化に伴う需要の増加と、自動化への比較的高い耐性が相まって、医療業界は荒波の中の安定した船のような存在となっている。次世代にとっての定番キャリアアドバイスは、「コードを学べ」から「ケアを学べ」へと変わるかもしれない。
ただし、この傾向が永続するとは限らない。
現在の大学卒業生労働市場の混乱を、若年女性がうまく乗り越えているように見えるとしても、それが将来にわたって続く保証はない。最近の米国の研究では、むしろ女性の方が男性よりも、生成AIによる職業の置き換えリスクがわずかに高い可能性があると示されている。もしAIがジュニアレベルのホワイトカラー職を大規模に置き換え始めた場合、女性は高等教育への参加率が圧倒的に高いため、より深刻な影響を受ける恐れがある。法律事務所やコンサルティング会社ではパートナー層が男性に偏っている一方、ジュニアスタッフ層の多くは女性が占めている。また、医療分野においても、現場職は自動化の影響を受けにくいと見られるが、事務職などのバックオフィスはその限りではない。
現在、大学卒業の就職プレミアムが失われつつあることは、特に男性にとって深刻な問題となっている。だが、これを「性別に特化した問題」と捉えるのではなく、より広範な現象として政策立案者がその意味を考えるべき時が来ている。
それでは今週もご自愛ください。