FTをパラパラめくっていると、コラム欄に見覚えがある名前が!なんとMeredith Whitneyさんですよ。
これにピンと来た方はリーマンショックの修羅場をくぐり抜けてきた強者の皆さんですね。進撃の巨人で言うところの「面構えが違う」あのシーンです笑。
BIG Shortなどでも映画になりましたが、そもそも作者のマイケル・ルイスさんがジョン・ポールソンにたどり着いたのは「ねえ、メレディス。だれが一番儲かったの?」という話からでした(確か)。
メレディスさんも本に登場しますが、オッペンハイマーだったかな、当時所属していた証券会社で「住宅市場がヤバいんです」と唱え出していて冷笑にさらされていましたが、見事にその崩壊を予言した人でもありました。
そんなメレディスさんがFTに投稿してますので、そりゃもう注目せざるを得ない訳です。
何を書いているかと言うと・・・・やっぱりホーム・エクイティでした笑。もはや求道者の域に入ってそうですが、それでも流石の着眼点。住宅価格の上昇を享受するホーム・エクイティの増大が、市場への住宅供給をより”減少”させるという問題。
日本でもマンション価格が年収の10倍を超えたという話題がありましたが、米国でも高値の花に。それにしても保険上がりすぎぃぃぃ。
FTコラム:Downsizing has become less appealing to older generations, lowering inventory of property salesより
米国の不動産業者にとって、このところ状況は芳しくない。住宅市場は行き詰まり、2025年の中古住宅販売は過去25年以上で最も低調なペースにとどまる見込みだ。今後数年間も大きく改善するとは限らない。
不動産市場は長期にわたり在庫不足に陥っている。端的に言えば、市場に出る物件が少なすぎるため、取引が細り、住宅価格が高止まりして多くの人にとって手が届かない水準となっている。
問題の根源は所有形態の変化にある。不動産業界で取引を動かす五大要因は、伝統的に「宝石(結婚)」「おむつ(子育て)」「離婚」「縮小移転」「死」と言われてきた。だが、近年では高齢世代にとって縮小移転の魅力が薄れている。
米国の住宅の54%以上が高齢者の所有となっており、2008年の44%から上昇している。そして高齢者は家を手放す気配がない。無理もない。高齢者の約79%は持ち家であり、そのうち76%は住宅ローンのない完全所有だ。仲介プラットフォームのRedfinによると、高齢者の78%は縮小移転するよりも現住居に住み続けたいと考えている。
住宅所有にかかる維持コストは、この5年間で大幅に上昇した。住宅ローンがなくても例外ではない。住宅保険料は平均70%上昇し、その他あらゆる生活コストにも根強いインフレが続いている。
しかし、過去10年間で住宅に積み上がった莫大な資産価値(エクイティ)が、こうしたコスト上昇から所有者を守っている。2025年第2四半期時点で、住宅に積み上がったエクイティは36兆ドルに達している。
そのため高齢者は、蓄積したエクイティを活用することで自宅を維持しやすくなった。こうした資金活用の拡大は、今後3〜4年の米国経済における重要テーマとなる。
ニューヨーク連銀によれば、昨年夏以降、ホームエクイティローン(HELOC)は他のあらゆるローンカテゴリーを上回るペースで拡大しており、クレジットカード債務の伸びを凌駕している。第2四半期時点で、高齢者は全HELOC残高の41%を保有している。
そもそもホームエクイティローンは住宅ローンに次いで最も低コストな消費者ローンだ。Bankrate.comの最新データによれば、平均的なHELOC金利は8.28%であり、個人ローンの平均12.39%やクレジットカードの20.12%よりもはるかに低い。
ホームエクイティ業界の市場規模は2009年に7,110億ドルでピークを迎えた。当時の住宅総価値は18兆ドルで、平均LTV(ローン比率)は51%だった。現在は4,110億ドル規模に縮小しているが、住宅価値は47兆ドルに拡大し、平均LTVは24%に低下している。2025年前半のHELOC残高増加は150億ドルで、2024年前半の200億ドルからは減少したが、その他のエクイティ活用商品は加速している。
2025年には「クローズドエンド・セカンドモーゲージ」という固定額融資型の商品が急成長している。米国第3位のホームエクイティ貸出業者であり、同商品の最大手であるRocket社は、年初来で50億ドル超の証券化を実行し、前年同期比57%の増加となった。
また最近では、高齢者を対象にした新商品も登場した。英国で普及している「利息のみ返済型HELOC」をモデルにしたもので、米国ではまだ初期段階だが、貸し手が高齢者市場に巨大なビジネスチャンスを見ている証左である。
既存ローンを新ローンに組み替えつつ現金を引き出す「キャッシュアウト・リファイナンス」も人気を集めている。ICE Mortgage Monitorによれば、第2四半期のリファイナンスの約60%がキャッシュアウト型であり、そのうち70%はより高い金利を受け入れてでも自宅エクイティを現金化している。
こうした金融商品を通じたエクイティ活用の供給と需要は、住宅在庫を抑制し続けることになる。つまり、住宅市場は従来とまったく異なる様相を呈し続けるということだ。即効薬は存在しない。30年ローン金利が低下しても、中古住宅販売が大きく回復することは期待できない。高齢者が「チェス盤の主導権」を握っており、豊富な選択肢を前に、そう簡単には動かないのだ。
それでは今週もご自愛ください。