最近、金融業界の一部で衝撃が走ったニュースが、CS発行のAT1債に関する判決でした。
UBSとの統合(救済合併)において、いきなり普通株に転換され、それが無価値になった悪しきCoco債の代名詞でもあります。普通株を保有していた既存株主には(ちょっぴりですが)価値が残ったのに、こっちは元本から全額ロス。天地が逆転するのとはこのことだと言わんばかり、債権者怒髪天をつく、世界中の気温が一度上昇した(嘘です笑)あのイベントです。
当然のことながら、各地で様々な集団訴訟が提起されておりますが、そのお膝元スイスで転換は違法だったとFINMAの行為を断じる判決を出しました。
もう気になって気になって、判決文やFINMAのコメントを読んでいると、流れはFINMAの守勢となっているように思えます。さらにはこの先はだれが(たぶんUBS)、いくら投資家に賠償するか、という流れができつつあるのでは?と感じております。
日本でも富裕層投資家を中心として、広く販売されていたAT1債です。いくばくかでも戻ってくるかも知れないという期待は、落胆していた投資家にとって朗報でありましょう。(上場ゲーム会社で運用の達人と言われるマスターでも40億円ほどの元本ロスを経験した、との報道もありました。)
地味なニュースではありますし、日本のメディアでは取り上げづらいマニアックな話題でもありますが、業界人としては目が離せない展開に。
案の定、相対市場で債権買取価格も上昇中、であります。
FT記事:Credit Suisse bondholder wipeout was unlawful, court rules
スイスの裁判所は、政府主導の救済措置の一環としてクレディ・スイスの債券160億スイスフラン(約1兆5,500億円)を無価値化した規制当局の決定について、「違法」であると判断した。ただし、投資家に償還を行うべきかどうかについての判断は示さなかった。
この訴訟は、UBSによるクレディ・スイスの緊急救済の一環として、2023年3月にスイス金融市場監督機構(Finma)が同行のAT1(追加的ティア1)債の償却を命じたことを受け、360件・約3,000人の投資家が起こしたものである。
スイス連邦行政裁判所は、Finmaの決定には明確な法的根拠がなかったと判断した。同裁判所は、監督当局の命令は無効であると認定したが、債券を復活または返済すべきかどうかについては判断を下さなかった。
Finmaの決定は物議を醸した。というのも、AT1債保有者が全損した一方で、クレディ・スイスの株主には一部の価値が残されたためである。これは通常、投資家が損失を負担する順序を逆転させる結果となった。
市場の意見は分かれた。ある者は、「AT1債の保有者は高度な投資家であり、債券が減損される可能性を理解していたはずだ」と主張した。
火曜日に公表された判決で、裁判官たちはFinmaが権限を逸脱していたと判断した。その理由は、債券の償却を行うための法的・契約上の条件が満たされていなかったからである。クレディ・スイス(現在はUBSの一部)は当時なお十分な資本を有しており、政府による流動性支援はAT1債の全損を引き起こす「存続不能事象(viability event)」には該当しなかったと裁判所は述べた。
また、Finmaの行為には確固たる法的根拠が欠けていたとも指摘。監督当局が引用した法令の規定は曖昧であり、投資家の財産権を侵害する正当な理由にはならないと結論づけた。
一部の投資家はこの判決を歓迎した。UBS株や債券に投資するアクシオム・オルタナティブ・インベストメンツのマネージング・パートナー、デイヴィッド・ベナムー氏は、「驚くべき決定だ。監督当局の措置に法的根拠がなかったことが明らかになった」と述べた。
今回の判決は暫定的なものであり、スイス連邦最高裁判所に上訴することができる。クレディ・スイスのAT1債の無効化に関連する他の訴訟は、この上訴が決着するまで保留となる。
「債券を復活させるかどうかはまだ決まっていないが、保有者は今後、補償を求めるだろう」とベナムー氏は述べた。「スイス政府が支払う可能性は低い。政府の90億スイスフランの保証は特定のリスク資産のみを対象としているからだ。もし投資家への補償が必要となれば、最終的にはUBSが支払うことになるだろう。」
債券の償還または復活、そしてその費用を誰が負担するのかは、Finmaが上訴した場合に最高裁が判断を下した後に決定される見通しである。
Finmaは「連邦行政裁判所の一部決定を認識しており、今後この判断を分析する」とコメントした。
このスイスの判決は、今月初めに米ニューヨークの裁判所が下したAT1関連の決定に続くものである。米裁判所は、旧AT1債保有者がスイス政府を相手取って起こした3億7,000万ドルの訴えを、国家免除(sovereign immunity)を理由に棄却した。債券保有者は30日以内に控訴することができる。
チューリッヒではUBSの株価が午後の取引で2.6%下落した。
UBSはコメントを控えた。
それでは今週もご自愛ください。