債権者の債権者に対する闘争

放っておくと、人は人と争うことになる。ゆえに社会と契約することで一定の秩序を保とう。そんな教えを説いた本があったかと思います。

長い歴史を経て人類はその教訓を学んできたはずですが、ところがどっこい21世紀の資本市場では未だに万人に対する闘争状態が頻発しております。

端的には会社更生法などのリストラ過程で、債権者同士(同じ船に乗る仲間なはずなのに)が残余価値を狙って、果てなき闘争を繰り広げる状態が頻発しており、流石に自由の国アメリカといえども、裁判所も歯止めをかけざるを得ない状況になっています。

少し雲行きの怪しい(特に米国)クレジット市場に対して、何らかのエクスポージャーをお持ちの皆様にはご注目頂きたい記事です。


FT記事: Court ruling seeks to cool creditor-on-creditor violence より

裁判所の判決が“債権者対債権者の暴力”を冷ますことを目指す

全ての動物は平等である、しかし一部の動物は他よりもより平等である。Animal Farm(『動物農場』)のこの一節は、過去10年間にわたって米国のディストレス債務市場を支配してきた力関係を、まさに的確に表している。 

歴史的には、担保貸し手(secured lenders)、劣後ジャンク債保有者、出資価値を失った株主らが、縮小した“パイ”の残りかすを巡って争う構図だった。

最近では、少し様相が変わってきている。いわゆる「債権者対債権者の暴力(creditor-on-creditor violence)」──同じクラスの債務を保有する中で、大口の貸し手がより小口の貸し手を絞りあげるという動きだ。例えば、同じローンの債権者クラス内で優位な貸し手が、他の同じクラスに属する貸し手より追加的に“ニッケルやダイム”を回収しようとする。 

多くの専門家からすると、こうした結果は法律や公平性の常識を超えていると見なされてきたが、裁判所が介入するのは遅かった。だが変化の兆しがある。

先月、テキサス州の連邦裁判所が、ITサービス企業 ConvergeOne(CVC社が支援)における再編計画を巡り判決を下した。この事例では、ある貸し手グループ(スーパー・マジョリティ)が、反対的な少数債権者グループに比して優れた回収条件を与えられていた。裁判所はこれを「同じクラスの債権者に対して平等な回収条件を提供していない」ため、破産法に違反すると断じた。 

この判決は、債務再編の枠組みとして10年間続いてきた潮流を揺るがす可能性がある。従来は、多数の債権者が割引されたエクイティ購入や出口ファイナンスを通じて、自分たちの利益を最大化する動きをしていた。例えば、Elliott Management が関与した Peabody Energy の事例がある。  裁判所は今回、「こうした再編取引が再編の一部とみなされるなら、同じ債権クラス内で不平等な扱いを受けてはならない」との立場を示した。

なぜ、これまで破産裁判所はこうした片寄った条件を容認してきたのか。背景には、迅速なチャプター 11(Chapter 11)承認を求める圧力や、債務企業が有利と思われる裁判管轄地を選ぶ「フォーラム・ショッピング(forum shopping)」の存在がある。裁判官側も強大な法律事務所と渡り合うには慎重にならざるを得なかった。 

ただし、一般的な裁判所(地区裁・控訴裁)では、再編の構造を理解し、こうした動きに対して異議を唱え始めている。例えば昨年、マットレス製造会社 Serta Simmons Bedding の再編において、同一クラス内の債権スワップがひどく偏った扱いだったとして、控訴裁が覆した判例がある。 

今回の判例が波及する範囲は、例えば現在進行中の再編案件である First Brands Group にも及び得る。ここでは、マジョリティ貸し手グループが 11 億ドルの破産貸付を提示し、参加貸し手向けには“甘い”条件が付されているが、全ての同クラス貸し手にその条件が提示されているわけではない、との懸念が専門家の間で出ている。 

まとめると、今回の判決は「同じクラスの債権者は同じ扱いを受けるべきである」という基本原則を、再編・破産の文脈において改めて確認したものだ。これにより、これまで“優位な貸し手がより多くを取る”という構図に一定のストップがかかる可能性がある。

債権者同士の“争い”が激化してきた中で、司法がその暴力的な側面にメスを入れ始めた、というのが私の見立てだ。今後、債務再編市場の力学や貸し手・借り手の交渉構造に変化が出てくるだろう。


それでは今週もご自愛ください。

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