恣意性の排除は善、とは言えず(米国ですけど)

ニデックやKDDIなどの事例を通じて企業統治がたびたびクローズアップされる我が国でありますが、その対比かつ先進事例として、SOX法などを制定して高度化に努める(とされる)米国に注目が集まります。ただことはそうも単純でなく、もう少し目を細めて観察してみると、彼の国にもそれなりの問題がありそうです。

隣の芝が青く見えすぎていないか、という自戒も込めて最近のデラウェアとテキサスをめぐる恣意的な”ガバナンス最適化行動”の話題を取り上げたいと思います。

話題の中心はやっぱりイーロンですが、数々の訴訟を乗りこえて、向こう傷をバンバン負いながらも進んでいく歴戦の勇姿ぶりは、さすがだと思います。ただ、その彼が選んだ”約束の土地”はテキサスにあったというのが本日の話題。

豊かな訴訟事例蓄積を誇るデラウェアが敬遠され、よりオーナーシップを発揮しやすい、ある意味恣意的かつ、よりコントロールを”効かせない”企業統治を許容するテキサスの違いは、単一ルールに基づくわが国よりもずっと深い問題を内包している気がするのです。


FTコラムLEXより:Elon Musk is officially free to roam in Texas

朗報だ、テキサス。イーロン・マスクは完全に君たちのものになった。月曜日、デラウェア州の企業法裁判所は、事実上、電気自動車メーカーの法人本拠地を同州に置く時代に終止符を打つ判断を下した。これによりテスラと、その風変わりなトップは、コーポレート・ガバナンスの規範を大きくかき乱す自由を手にしたことになる。

争点となっていたのは、マスクがテスラ株主に対する義務に違反したとして投資家らが起こしていた一連の訴訟だった。原告側は、マスクがEVメーカーであるテスラの資源を、自身の事業帝国に属する他の会社へ流用したほか、テスラに関するネガティブ情報を把握しながら株式を売却したと主張していた。

裁判所が投資家の主張を誤りだと判断したわけではない。むしろ、「訴える場所が間違っていた」としたのである。これらの訴訟は、マスクが2024年にテスラの本拠地をテキサスへ移す手続きを開始した後、ただし株主がその移転を承認する前に提起された。デラウェアの裁判所は、これらの請求にはテキサス州法が適用されるべきだとするマスク側弁護士の主張を認めた。

そもそもマスクとデラウェア州の関係は、決して円満ではなかった。この起業家は、自身と取締役会の距離が近すぎるとして州の第一審判事が無効とした560億ドルの報酬パッケージを復活させるため、約2年にわたって争い、最終的に勝利している。

これに対しテキサス州は、企業トップにずっと寛容だ。たとえば、今回棄却されたような「株主代表訴訟」を起こせるのは、会社株式の3%を保有する株主に限られる。テスラの場合、それは340億ドル相当の持分にあたる。

つまり、マスクは自分なりのコーポレート・ガバナンス観をより自由に実現できるようになる。それはテスラだけにとどまらない。やはりテキサスを本拠とする彼の宇宙企業スペースXも、将来的に株式上場へ向かっており、その評価額は2兆ドルに達する可能性がある。これは、自動車メーカーである“兄弟会社”テスラのほぼ2倍にあたる水準だ。

すでにスペースXは、従来のいくつかの慣行を逸脱しそうな気配を見せている。たとえばマスクは、内部関係者による株式売却に通常課される6か月間の制限を撤廃するかもしれない。そうなれば、IPO前の投資家が株式を売り浴びせ、ロケット企業が上場企業として飛び立ったばかりの段階で株価を押し下げるリスクが生じる。

もっとも、マスクがテスラやスペースXで融和的な姿勢を見せる可能性もある。たとえテキサスで訴訟が成功しにくくなるとしても、訴訟という面倒事そのものは避けたいと考えるのが普通だろう。実際ここ数年、テスラの株価が弱含む局面では、この億万長者とテスラの取締役会は、少なくとも彼の会社への関与を再確認するための象徴的な措置を取る姿勢を見せてきた。新たな取締役の追加や、将来のCEO候補層の育成などがそれにあたる。

ある意味で、テスラは、いわゆる「私的秩序(private ordering)」という考え方の試金石でもある。つまり、筆頭株主でありCEOでもあるマスクが、規制上の標準に縛られず、支配の条件を株主と直接交渉できるという発想だ。どうやら成立している取引はこういうことらしい。株価が上がっている限り、この億万長者には相応の裁量を認めるべきだ、と。テキサスでは「髪が高いほど神に近い」という言い回しがある。株価にも同じことが当てはまるのか、見ものだ。


それでは今週もご自愛ください。

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