損を出すための新戦略

オルタナ運用会社にとって、成長の源泉はリテールマネーの獲得という構図が顕著なご時世において、ヘッジファンドは息してますか?と危惧していたところ、税金控除リターンを最適化するという古くて新しい発想で、ぐんぐん勢力を拡大しておりました。舐めた口を聞いてごめんなさい。

従来のロング・ショートという発想を維持しながら、損失が出たポジションを積極的に実現し、税務上の損失を確定させることで、税引後のネットリターンを最適化/拡大するという魔法のツール。

これまでのキャピタルゲイン課税圧縮に加えて、なんと所得税圧縮も視野に入れて、富裕層を中心に急速に広まっております。「損失を片っ端から確定していくぜぃ!」というよもやよもや、煉獄さんもびっくりの発想ではありますが、その裏には米国30日ウォッシュ・ルールも巧みに回避する、レバレッジとデリバティブを使ったポジションの置き換えで税務ルールを潜り抜ける荒技でもあります。

税務否認リスクも含めて、よくそんなポジション取れるなぁ、という嘆息交えた感想になりますが、改めてクオンツ技術が作り出した、現代金融商品の一端をご覧ください。


FT記事:ウォール街を席巻する、税務重視型ヘッジファンドの熱狂より

ヘッジファンド業界では、富裕層投資家の税負担を軽減する戦略によって、昨年初め以降で900億ドルの資産が流入している。この物議を醸す分野は、いまや業界でも最も急成長している領域の一つとなっている。

AQRキャピタル・マネジメントやクオンティノ・キャピタル・マネジメントは、投資家の税負担を下げることで得られる利益、いわゆる「タックス・アルファ」と、市場平均を上回る運用成績の両方を目指す、新たな税損活用戦略の人気急上昇を牽引するヘッジファンドの代表格だ。

タックスロス・ハーベスティング(税損回収)は、ポートフォリオ内の他の利益と相殺するために、損失が出ている証券を売却する、古くからある手法である。モルガン・スタンレー傘下のパラメトリックのような運用会社は、損失が出ている保有銘柄を戦略的に売却するロングオンリー型の手法を長年専門としてきた。

しかし、運用資産2,070億ドルのAQRと、2018年に元AQRトレーダーらによって設立されたクオンティノは、レバレッジとアルゴリズム取引を活用し、大量の証券を買い建て・空売りしつつ、ポジションの損失を体系的に実現するアプローチを切り開いてきた。

マルチファミリーオフィスのディシュミ・キャピタル共同創業者であるShang Chou氏は、「得られる損失額の規模が大きく、しかもより安定的で一貫している。これは上昇相場でも下落相場でも機能する」と語った。

AQRは、投資家にとっての「主たる魅力」は、税務メリット以前のリターン、すなわち市場平均を上回る運用成績である「税引前アルファ」であるべきだと述べた。

AQRは「税引前アルファがなければ、これらの戦略は手数料に見合わない。この事業は、魅力的な投資収益を生み出しつつ、課税対象投資家が自らの稼得分をより多く手元に残せるよう支援するという、当社の長年の取り組みの集大成だ」と説明した。

しかし、新規資金流入の急増は、ウォール街の他の関係者の間で、この戦略の拡大があまりに急すぎるのではないかという懸念を招いている。

事情に詳しい関係者によると、フィデリティ・インベストメンツは2月、ロング・ショート型のセパレートリー・マネージド・アカウント(SMA)への新規投資の受付を停止した。

AQRとクオンティノは、投資家資金をプールするヘッジファンドに加え、投資家向けに税務対応型のSMAも運用している。クオンティノ創業者のHoon Kim氏はこれを「ミニ・ヘッジファンド」と表現した。

また批判派は、これらの戦略がレバレッジと空売りを広範に用いているため、見た目以上にリスクが高く、株式市場が急落した場合には損失が拡大しかねないと主張している。

あるマルチファミリーオフィス幹部は、「問題なのは、それが人々が理解も評価もしていないコストを伴っていることだ。しかも、それをレバレッジ付きで行えばその影響は増幅される」と述べた。

さらに同氏は、投資家はしばしばタイミングを誤って殺到し、この戦略に投資する「最良のタイミング」は、株式市場がすでに大きく下落した後だと付け加えた。

AQRとクオンティノは、スワップやその他費用を活用することで、キャピタルロスだけでなくインカムロスも生み出そうとしている点で、従来の税務対応型投資戦略と異なる。

事情に詳しい関係者によると、これにより投資家はキャピタルゲイン課税を軽減するだけでなく、通常の所得税とも相殺できる可能性がある。投資家はファンドを解約する際に税金を支払う必要があるものの、死亡時まで投資を保有し続ければ、その支払いを事実上無期限に繰り延べることができる。

ウェルス・アドバイザリー・グループ、ダイナスティ・ファイナンシャル・パートナーズのPat Nerney氏は、この新しいヘッジファンド戦略は従来の手法を「ジェット燃料で加速させた」ようなものだと語った。

AQRとクオンティノは、レバレッジとアルゴリズム取引を用いて大量の証券を買い建て・空売りし、ポジションの損失を体系的に実現するアプローチを切り開いてきた。

FTが確認した投資家向けプレゼン資料と関係者によると、こうした税務対応型戦略により、AQRは昨年3月以降で470億ドル、クオンティノは2025年1月以降で390億ドルの資産を新たに積み上げた。これに対し、データ会社HFRによれば、ヘッジファンド業界全体の昨年の資産増加額は約6,280億ドルだった。

12月末時点で、AQRの総運用資産のほぼ3分の1が税務対応型ファンドに保有されている。

ウォール街で働くある関係者は、税務対応型ファンドについて「グリニッジで最も熱い商品だ」と話した。この人物によると、最近の地元のスポーツ観戦の場では、通常所得損失に特化したAQRの「Delphi Plus」ファンドが父親たちの話題を独占していたという。「みんな今、それに飛びついている」。

事情に詳しい関係者によれば、トゥー・シグマやワールドクオント・ミレニアム・アドバイザーズなどのクオンツ系ファンドも同様の商品を立ち上げている。トゥー・シグマのファンド「Two Sigma Beacon」は、2022年から社員向けに提供されていたが、昨年末により広く開放され、現在の運用資産は約9億5,000万ドルに達している。これはFTが確認した投資家向け資料と関係者の証言によるものだ。

新規投資の急増により、ウォール街ではこの戦略の成長が速すぎるとの懸念が高まっている。クオンティノ創業者のKim氏は、顧客にどれだけの節税効果をもたらしたかの推計は明かさなかった。ただし、投資家が何年にもわたって納税を繰り延べられるこれらのファンドが、ここ数か月で人気を急速に高めたことは認めた。

同氏は「いったん口コミが広がり始めると、本当にあっという間に広がった」と語った。こうした戦略への需要の高まりにより、最低投資額のハードルも引き上げられている。

FTが確認した内部資料によると、JPモルガン・チェースのプライベートバンクは、ある戦略については1.1%の運用報酬で最低2,500万ドル、別の戦略については0.65%の報酬で最低5,000万ドルの投資を顧客に求めている。

事情に詳しい関係者によると、バンク・オブ・アメリカのメリルは、別のAQR商品について今年初め、最低投資額を35万ドルから100万ドルへ引き上げた。同銀行はそのファンドに関して6億ドル超の顧客資産を抱えているという。

JPモルガンとバンク・オブ・アメリカはいずれもコメントを控えた。

一部の投資家やアドバイザーは、規制当局による監視強化の可能性についても警告している。あるファイナンシャルアドバイザーは、「最も深く、本質的なリスクは、IRS(米内国歳入庁)がこれに目をつけることだ」と語った。税務弁護士や投資家によれば、2028年に民主党がホワイトハウスを奪還した場合、こうした戦略は標的になる可能性がある。

現行法でも、1921年に導入された「ウォッシュセール・ルール」のように、税損回収の一部の極端な形態は禁止されている。これは投資家が30日以内に同一証券を売買することを禁じるものだ。しかし、それ以外にもなおグレーゾーンは残っている。

タックス・ポリシー・センターの元シニアフェローであるスティーブ・ローゼンタール氏は、「民主党には税収を増やし、税の抜け穴に対する振り子を元に戻すだけの関心も財政的インセンティブもある」と述べた。

同氏はさらに、「もし民主党が行政府を取り戻せば、富裕層による高度なタックスプランニングに対する執行を強化するだろう。それもかなり積極的な形で。そうなると問題は、どれだけ早く行動に移せるかだ」と語った。

AQRは投資家向け資料の小さな注記の中でこのリスクに触れ、IRSによる異議申し立てが成功した場合などには、税務上のメリットが「想定より小さくなる可能性がある」と警告している。また「罰則が適用される可能性もある」と付け加えた。


それでは今週もご自愛ください。

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