罠に嵌った飛行機たち 航空機リース市場の試練

Financial Times記事より:
Planes trapped in Russia highlight legal challenges for owners of leased aircraft

ある意味では金融商品とも言える航空機リース市場でありますが、ウクライナ危機を迎えるにあたって関係者が固唾を飲んで見守るイベントが進行中です。

日経新聞では大きな記事になっていないのですが、西側の会社が保有する500機以上のオペレーティング・リースを通じて”貸し付けている”航空機がロシア側に囚われているという話題です。

実は今回のウクライナ危機でEU ,UK ,US,カナダが3月28日付で”force majeure”条項を発動させリース契約を停止させることを発表しています。実務に携わったことがある方であれば”force majeure”って本当に発動するんだ!!と腰を抜かしたことでしょう。いわゆる天変地異が起こった場合に契約履行を停止・無効にする条項が今回のウクライナ危機で発動されているんです。

Lessor、つまり貸し手はロシアから飛んできた航空機を停留地で差し押さえていますが、120億から150億ドルの価値があるとされる500機以上の航空機はロシアに待機中で差押えが難しい状況。

貸し手ごとにリース機体の価値評価を下げたり、減損したりバリュエーションを切り下げておりますが、結局機体を取り戻せるかどうかが評価の分水嶺となることでしょう。償却などを狙って日本の投資家もエクイティ投資家として多数参加する航空機リース市場でありますが、ウクライナ危機は日本の投資家にとっても”そこにある危機”となっており、まさか飛行機を取り戻せない状況が発生するとは想像できていなかったと推察いたします。

Lessors have seized two or three aircraft, leaving them with $12bn to $15bn of assets in legal limbo

FTに記事を提供するJohn Dizard氏は金融市場に対して鋭い洞察をされますが(個人的に注目しているエディターです)今回の指摘も投資家の心に突き刺さるものがあります。

”航空機リースの貸し手、もしくは所有者に機体を支配する権利が当然に存在するという根底が覆されそうとしている” 

危機の本質はこの法的権利の実効性にあると言えます。

ご興味ある分野であれば、ぜひFinancial Times掲載の当該コラム(英文ですが短いです)を読んで頂きたいと思います。航空機リース契約においてデフォルトが発生した場合は”Cape Town Convention”という考え方に従い、所有者(エクティ投資家)が出廷し法廷闘争に持ち込んだ上で、権利規定に沿って航空機を取り上げ、売却もしくは再リースして活用するというのが常でしたが、本当にロシアに駐機している機体に対して法的強制力を発揮して取り戻せるのか。

ロシアもケープタウン条項に調印している国ではありますが、巧妙?なのがロシア国内に駐機している機体は正式に国有化されておらず、機体によっては一部リース料が支払われるかもしれない。その場合に(支払い不履行に備えた)保険契約は履行・支払われるのか?もちろん一部の契約では政府による没収や、戦争の対応など盛り込まれておりカバーされると思いますが、それは基本的にはロシアの保険会社と締結された保険であり、それがロンドンやバミューダの再保険市場を通じて分散保有されている。再保険がきちんと機能するか否かにも注目です。

保険リスクの真の引き受け手は誰なのか。そして今回の事例をもとに保険プレミアムが上昇していく。何よりもロシアに駐機したままで差押えできない機体はどうするのか。ウクライナ危機を通じて炙り出されたリスクに対して、長い法廷闘争が待ち構えるのかも知れません。

これほど大規模で航空機リース市場が試練に晒されることがこれまでにありましたでしょうか。引き続き目が離せないイベントです。

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