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LPAにも強くなる

みなさま、おばんです。

今日は、GP/LPまわりで地味にモヤモヤしがちなテーマを一つ取り上げたいと思います。

Cayman籍のPE/プライベートデットファンドに投資するとき、PPMだのOffering Circularだの、LPAだのSub Docだの… 結局どの書類を、どこまでちゃんと読めばいいの?

というやつです。

正直に言うと、私自身も昔は

  • 「PPMは分厚すぎて、リスクファクター3ページ目で寝る」
  • 「LPAは条文だらけで、どこから読めばいいのかよくわからん」
  • 「Subscription Agreementは、よくわからない自己申告が大量に出てきて不安」

という状態でして「まあ弁護士がチェックしてるから大丈夫でしょ」という危ういメンタルで済ませてしまっていた時期もありました(反省…)。

でも、日本の機関投資家としてCayman LPにコミットしていくうえで、

  • 各ドキュメントの役割分担
  • どこまでが“お化粧”(マーケ資料)で、どこからが“契約”なのか
  • LPとして「ここだけは目を通しておかないと危ない」ポイント

くらいは、自分の言葉で説明できるようになっておきたいな、と思うようになりました。ということで今日は、

  • Cayman籍Exempted Limited Partnership(ELP)を前提にした書類の全体像
  • PPM/Offering Circular/LPA/Subscription Agreement/Side Letterの役割分担
  • 日本人投資家(特に機関投資家)が、どこを重点的に読むべきか

を、いつも通り私の独断と偏見で整理してみます。
※実務に使う際は、必ずファンド弁護士・税理士・コンプライアンスのプロにご確認ください。あくまで「読み方の地図」ということで。


1. Cayman LPファンドと「書類の4点セット」全体像

1-1. なぜCaymanのExempted Limited Partnershipなのか

日本の投資家がオルタナ・ファンドに投資する場合は、ケイマン籍のExempted Limited Partnership(ELP)が、いまや完全に「標準フォーム」になっています。(ユニット・トラストなどのTaxブロッカーは一旦忘れてください)

  • Caymanでは、会社型や信託型も理論上は可能ですが、圧倒的多数はELPで組成されている(maples.com)
  • 器としては、CaymanのExempted Limited Partnership Actと、クローズドエンドファンドに適用されるPrivate Funds Actの枠組みの中で動く(Cayman Islands Government)

そのうえに、

  1. PPM/Offering Memorandum/Offering Circular(名称は色々)
  2. Limited Partnership Agreement(LPA)
  3. Subscription Agreement(サブスクリプションアグリーメント)
  4. (あれば)Side Letter(サイドレター)

という「4点セット」が載っているイメージです。(Conyers)

1-2. ざっくり役割分担

ざっくり言うと:

  • PPM→ 「こんなファンドです/こんなリスクがあります」を説明するディスクロージャー資料(≒分厚いパンフ+目論見書)
  • LPA→ GPと全LPの間の“憲法”となる契約書。経済条件・ガバナンス・権利義務のすべてがここに書いてある
  • Subscription Agreement→ 個々の投資家が署名する「私はこの条件で参加します」という誓約書+自己申告フォーム(dentons.com)
  • Side Letter→ 大口LPなどが、LPAの上に積み増す個別優遇条項の集まり

この4つがどう絡むかを意識しながら読むと、だいぶ視界がクリアになると思います。


2. PPM/Offering Circular:分厚いけど「どこを見るか」を決めれば怖くない

2-1. PPMの位置づけ

PPM(Private Placement Memorandum)、Offering Memorandum、Offering Circular…名称は色々ですが、いずれも私募で証券を販売する際のディスクロージャー文書です。(capitalfundlaw.com)

  • ファンドの目的・戦略・ターゲット市場
  • マネジメントチームの紹介
  • 手数料・キャリーの概要
  • リスクファクター
  • 利害相反やコンフリクト・ポリシー
  • 税務・規制面の概要

などが、延々と書かれています。重要なのは、

PPMは「契約書」ではなく、ディスクロージャー文書

だということ。多くのファンドでは、「LPAとPPMが矛盾する場合はLPAが優先」と明記されています。なので、PPMだけ読んで満足すると、本当に効いてくる条文(LPA)を読み損ねることになります。

2-2. 投資家として「ここだけは見ておきたい」パート

とはいえ、PPMをきっちり頭から読むのはかなりハードです。個人的に、最低限ここだけは押さえておきたい、というのは以下あたり。

  1. Fund Summary/Key Terms
    • 投資戦略、ターゲットリターン、ターゲットサイズ
    • 投資期間、ファンド期間、延長条項
    • 手数料(マネフィーのベース・レート・ステップダウン)
    • キャリー、ハードルレート、ウォーターフォールの概要
  2. Investment Strategy & Use of Leverage
    • 実際に何に投資する気なのか(地域・セクター・レンジ)
    • レバレッジをどの程度/どの階層(SPCレベル・ファンドレベル)で使うのか
  3. Fees & Expenses セクション
    • Management Fee以外にどんな費用がファンドにチャージされるか
    • GP関連会社へのアドバイザリーフィー、監査・法律費用の扱い
  4. Conflicts of Interest/Related Party Transactions
    • GP/グループのコンフリクト構造
    • マルチファンド運用のときのアロケーションポリシーなど(capitalfundlaw.com)
  5. Risk Factors
    • マクロ系の一般論は流し読みでよいとして、
    • ストラクチャー/レバレッジ/流動性/規制・税務など、このファンド固有のリスクは目を通したいところ。

PPMは、「このファンドに参加していいか/そもそも投資対象として外すべきか」を判断するための一次フィルター、と割り切ると読みやすいかなと思います。


3. LPA:LPにとっての「憲法」。ここを読まないと始まらない

3-1. LPAの役割とCayman法との関係

Limited Partnership Agreement(LPA)は、Cayman ELPのGPとLP全員との間の基本契約書です。

  • CaymanのExempted Limited Partnership Actは、LPAで何も定めていない部分の「デフォルトルール」を提供するイメージ(Cayman Islands Government)
  • 実務上は、LPAの条文でかなり細かく「上書き」していきます(Conyers)
  • ILPAや経産省モデルLPAのようなベンチマークもあり、最近はLPフレンドリーな条項が増えてきたとはいえ、最終的には「このLPAにサインしましたか?」がすべてです。(ilpa.org)

CaymanでGP側の不適切行為が争われた裁判例などを見ても、最終的にはLPAの文言にどこまで権限が書かれていたかが勝負になります。(Appleby) なので、LPとしては「ここだけは読む」という優先順位を決めて、LPAに向き合う必要があります。

3-2. 経済条件まわり:お金の出入りがどう動くか

まずはお金の話から。

  1. Commitment/資本拠出(Capital Call)
    • コミットメントの定義(リサイクル含むか?)
    • キャピタルコールの頻度・通知期間・デフォルト利率/ペナルティ
  2. Management Fee条項
    • ベース:コミットメントベースか、投資原価ベースか、残高ベースか
    • レート:2%なのか、それ以下/以上か
    • 投資期間終了後のステップダウン(1.5%→1.0%など)
  3. Carried Interest/Waterfall
    • ヨーロピアン型(Whole of Fund)か、ディールバイディールか
    • ハードルレート(8%が典型)/キャッチアップの形
    • Clawbackの有無・タイミング(ilpa.org)
  4. Expenses条項
    • ファンドが負担する費用(組成費用/ブロークレイジ/デューデリ費用/アドバイザリーフィー等)
    • GPサイドが持つべき費用と、ファンドが負担すべき費用の線引き

ここを読んで、「PPMに書いてあった話と違わないか」「ILPA的なスタンダードから見てどうか」をチェックするイメージです。

3-3. ガバナンス&権利:GPをどこまで“信任”するか

次に、LP側にとって超重要なガバナンス・条項です。見ておきたいのは、少なくとも以下あたり:

  • GPの権限と制限
    • 投資決定権はどこまでGPに一任されているか
    • 投資制限(地域・セクター・レバレッジ・集中度など)
  • Investment Period&Key Man条項
    • Key Personが不在になったとき、投資期間は自動的に停止するか
    • LPの承認なく再開できるのか、LPAC投票が必要なのか
  • LPAC(Advisory Committee)の権限
    • コンフリクト承認/バリュエーションの監督/Key Manイベントの認定など
    • LPACに入ると追加の責任(fiduciary duty 的なもの)が発生するか
  • フォーコーズ/ノーフォールト解散/GP解任
    • For Cause Removal(重大な違法行為など)の定義
    • No Fault Divorce(理由を問わない解任)条項の有無と、必要なLP投票比率
    • ファンド解散のトリガーと、清算プロセス

ここは「GPの行動が想定と違ってきたとき、LPがどこまでブレーキを踏めるか」に直結します。

3-4. LP保護条項:自分の規制・制約にどう対応できるか

日本の機関投資家目線で気になるのは、例えばこんなところです。

  • Excuse/Opt-out条項
    • 制裁・ESG・内規等の理由で、特定の投資から自分だけ外れる権利があるか
    • その場合のエコノミクス(管理報酬・キャリーへの影響)がどう取り扱われるか
  • Default条項(未払時のペナルティ)
    • キャピタルコールに応じなかった場合の
      • 遅延利息
      • 持分の希薄化(ディスカウント発行)
      • 最悪の場合の持分没収(forfeiture)
    • あまりに過度な制裁設計になっていないか
  • Transfer/Secondary条項
    • ファンド持分を売却(セカンダリー)できる条件
    • GPの同意が必要か/どの程度裁量があるか
  • Most-Favoured-Nation(MFN)条項
    • 後で出てくるSide Letterとの関係。
    • 同一クラス・同一サイズのLPが得ている有利条件を、自分も享受できるか。
  • 情報開示・レポーティング
    • 四半期報告の内容・頻度・タイミング
    • ILPA標準テンプレート準拠かどうか(ilpa.org)

このあたりは、日本側の規制・ガバナンス(バーゼル/ソルベンシー/ESG方針など)と直結してくるので、LPAレビューの優先順位としてかなり上に置いて良い部分だと思います。


4. Subscription Agreement:長いけれど「自己申告の塊」

4-1. Sub Docの役割

Subscription Agreementは、個々のLPごとに締結する参加申込書+誓約書です。(dentons.com)

Dentonsの整理が分かりやすいのですが、典型的には:

  • 投資家情報(名称・住所・コンタクト)
  • コミットメント金額
  • 投資家の属性に関する自己申告(プロ投資家/QII/ERISA関連など)
  • マネロン/制裁関連の確認
  • FATCA/CRS等の税務自己申告
  • 各種表明保証(Representations & Warranties)

などが延々と並びます。

4-2. 日本人投資家が特に気にしておきたいところ

正直、Sub Docは「弁護士とオペレーション部門に任せたい気持ち」が強くなりますが、投資家/チームとしても最低限このあたりは意識しておきたいところです。

  • 自分の属性に関する自己申告が正しいか
    • Qualified Institutional Investor(QII)やプロ投資家に関するチェック
    • ファンドが日本での私募規制を前提にしている場合、ここを間違えるとGP側も困る
  • ERISA/保険会社規制関連の質問
    • 米国年金等の「Plan Asset」規制の対象になるのかならないのか
    • 日本の保険会社の場合、内部ルールと矛盾がないか
  • インデムニティ(損害賠償)条項
    • 誤った自己申告をした場合に、ファンドやGPに対してどこまで責任を負うことになるか
  • AML/制裁関連の表明保証
    • 制裁対象国との取引がないこと等の表明
    • 将来それが変わったときの通知義務など

Sub Docは、「ファンドのルールに、私はこういう立場で参加します」と自分で宣言する書類なので、コンプラ・法務担当と一緒に、内容の整合性を確認しておきたいところです。


5. Side LetterとMFN:LPAの上に積み増される“個別条項”

5-1. Side Letterとは何か

Side Letterは、特定のLP(通常は大口投資家やアンカーLP)が、GPと個別に締結する追加の合意書です。

典型的には、

  • 報告内容・頻度の追加
  • 手数料ディスカウント(早期クロージング/コミットサイズに応じたFee Break)
  • 投資制限(ESG/制裁/宗教的理由など)に関するExcuse権
  • 税務・規制上の配慮(源泉徴収や情報提供の方法など)

といった内容が並びます。

LPAには「Side Letterで合意された条項は、そのLPとの関係ではLPAに優先する」と書かれていることが多く、実務上は“LPA+Side LetterがそのLPの契約条件”ということになります。

5-2. Most-Favoured-Nation(MFN)の見方

大口LPにとって気になるのが、MFN(Most-Favoured-Nation)条項です。

  • 「同じクラス・同程度のコミットサイズのLPが、より有利な条件をSide Letterで得た場合、自分も同じ条件を選択できる」
  • という趣旨の条項で、ILPA等でも標準的な投資家保護として位置づけられています(ilpa.org)

MFNを見るときは、

  • 対象:同一クラス?同一コミットレンジ?それ以下も含む?
  • 適用除外:Tax/規制対応など、一部の条項はMFNの対象外になっていることが多い
  • プロセス:定期的なSide Letterディスクロージャーの方法(データルームで閲覧など)

あたりをチェックしておきたいところです。


6. 実務フローとしての「読み順」提案

ここまでを踏まえて、「全部ちゃんと読め」と言われても現実的ではないので、個人的な“読み順”イメージを最後に置いておきます。

6-1. Step 0:Term Sheet/Marketing Deckで大枠確認

  • 戦略・トラックレコード・ターゲットリターン
  • ファンドサイズ・投資期間・ファンド期間
  • Fee&Carryのざっくり水準

ここで「そもそも当社の投資方針に合うのか」を一次判断。

6-2. Step 1:PPMで“赤信号がないか”チェック

  • Strategy/Leverage/Conflicts/Risk Factors/Fees
  • 「これは当社的にNG(レバレッジ過大、コンフリクト構造がきつい等)」というポイントがないかを確認

ここまでで「ストラクチャーやリスクの骨格は許容できる」と判断できれば、LPAに進みます。

6-3. Step 2:LPAをテーマ別に読む

一気に頭から読むのではなく、テーマ別に飛び飛びで読むのがおすすめです。

  • 経済条件:Management Fee/Carry/Waterfall/Expenses
  • ガバナンス:Key Man/LPAC/Removal/Dissolution
  • LP保護:Excuse/Default/Transfer/MFN/情報開示

ILPA Model LPAや、経産省モデルLPAを片手に「これは割とマーケットスタンダード」「ここはかなりGP寄り」などの感覚をつかんでいくと、GPとの交渉ポイントも見えやすくなります。(ilpa.org)

6-4. Step 3:Subscription Agreement&Side Letterで“自社仕様”に落とす

  • Sub Docでは、自社の属性・制約と整合しているかを法務・コンプラと確認
  • Side Letterでは、
    • 報告の粒度
    • 米国金融規制・子会社関連(いわゆるBHC条項)
    • Excuse権
    • Fee Break/MFN
      など、「当社として絶対に欲しいもの」を事前にリストアップしたうえで交渉

このフェーズは、GPとの信頼関係を作る場でもあるので、「規制上こういう制約がありまして…」と正直に共有しながら、両者にとって納得感のある落としどころを探るのがよいのかなと思います。(特に銀行関連業務の方はBHC条項をこちらで追加するのが通例かと)


7. まとめ:全部読む必要はないが、「どこを読むか」は決めておきたい

最後に、無理やり一言でまとめるとすれば、

PPM/LPA/Sub Doc/Side Letterの“役割分担”を押さえたうえで、自分なりの「ここだけは読む」優先順位を持っておくと、GPとの会話の質とスピードが一段変わる

ということかなと思っています。

  • PPMは“このファンドにそもそも参加していいか”を判断する「一次フィルター」
  • LPAはLPとしての権利・義務・ガバナンスを規定する「憲法」
  • Subscription Agreementは私はこういう条件・属性で参加します、という「誓約書」
  • Side Letter&MFNは、自社事情にあわせてどこまでカスタマイズできるか、の「個別オーダー注文」

この全体像さえ掴めれば、「分厚い書類の海」に対する恐怖感はだいぶ和らぐのではないかと思いますし、
GPに対しても

うちはLPAのこの辺り(Key Man/Removal/Excuse/Default)の設計を特に重視してます

などと、かなり具体的な会話ができるようになります。

今後は実際の条文サンプル(もちろん匿名化した形で)を使って、もう少し細かい“読み方”も掘っていければと考えています。

それでは本日もよい一日を。


参考資料(一部)

  • Conyers「Guide to Establishing Private Equity, Venture Capital and Real Estate Funds in the Cayman Islands」(Conyers)
  • Maples Group「The Private Equity Law Review – Cayman Islands」(Cayman ELPの概要)(maples.com)
  • Cayman Islands Government「Exempted Limited Partnership Act (2025 Revision)」(Cayman Islands Government)
  • Conyers「Cayman Islands Private Funds」(Private Funds Actの概要)(Conyers)
  • Capital Fund Law Group「What’s in a Private Placement Memorandum」(capitalfundlaw.com)
  • Dentons「Investment funds subscription agreements – how many pages?!」(dentons.com)
  • ILPA「Model Limited Partnership Agreement」「Templates & Standards」(ilpa.org)
  • 経済産業省「新たなモデルLPAの作成」(日本版モデルLPAの検討資料)(経済産業省)
  • Appleby「GPs behaving badly: disputes involving Cayman exempted limited partnerships」(Appleby)