PEの歴史をさらりと眺めてみると - 2つの買収企業物語

高い専門性を誇るFTですが、その中でも注目する記者の一人がPatrick Jenkinsさん。PE内情にやたら詳しいのに加え、歴史的に俯瞰する視点がマニア心を刺激してくれます。(ちなみにもう一人の注目記者は破綻事例に強いSujeet Indapさん)

それにしてもさらりと掲載される短い記事の中に、PEと資本主義の関係、そしてパブリック市場とプラベート市場の関係性がくっきりと描かれているのが本当に素晴らしい。皆様にはぜひご一読いただきたい歴史物語であります。


FT記事:The thinking barbarians: how private equity has evolvedより

今日は皆さんと一緒に200億ドル規模の2つの企業の物語を考えてみるとしよう。

思い出せば35年前、コールバーグ・クラビス・ロバーツがRJRナビスコを買収したとき、プライベート・エクイティ業界は初めてメインストリームの見出しを飾った。そのナビスコとの250億ドル規模の取引は、ベストセラーとなったビジネス書『Barbarians at the Gate(邦題:野蛮な来訪者)』で不朽の名作となったが、今でもそのインパクトは計り知れない。(ちなみに昨年最大のグローバル・バイアウトであった、日本産業パートナーズが東芝に支払った140億ドルを凌ぐものだ)。

しかし、規模を除くほとんどの点では、プライベート・エクイティは過去30年間で大きな変貌を遂げた。OECDによれば、1980年代から2000年までの年間取引総額は、米国でさえGDPの1%を超えることはほとんどなかった。それが今やPitchBookのデータによれば、過去4年間、この比率は2~5%に達している。前例のない超低金利時代に支えられ、レバレッジを駆使した膨大な事業拡大を我々は目の当たりにしてきたのだ。

それにしてもKKR-ナビスコほどアグレッシブな取引はほとんどなかった。しかし、歴史上最も有名なバイアウトは、結局最も悪名高いバイアウトとなっている。15年間にわたり、タバコ事業のリスクが高まり、負債コストが膨れ上がるにつれ、当初の取引の合理性は破綻してしまった。最終的にKKRは、この取引で7億3,000万ドルの損失を出すことになる。

他の多くの企業も長年にわたって物色され、プライベート・エクイティのオーナーにとって大きな成功を収めたことも多い。しかし、今日の業界を、短期主義者で借金中毒の資産強奪者と一様に描くことは適切とは言えない

プライベート・エクイティが所有するもう一つの200億ドル企業、ヴィスマのケースを見てみよう。ロンドンを拠点とするHGによって初めて非公開化され、2006年の企業価値は約5億ドルだったが、北欧のソフトウェア・ビジネスは現在、その40倍の価値があると言われている。ヴィスマの18年にわたる所有権の歴史は、誇張された形ではあるが、プライベート・エクイティの幅広い進化の物語でもある。

その一つの傾向は、保有期間の長期化である。1990年代や2000年代には、典型的なプライベート・エクイティ・ファームは、3年か4年で取引を終えていた。PitchBookによると、昨年売却された1,121社の保有期間の中央値は6.4年で、これは過去最高記録である。この背景には、負債の追加や雇用の削減を超えたモデルの成熟がある。しかし、プライベート・エクイティが投資期間を延長するために、いわゆるコンティニュエーション・ファンドを利用したり乱用したりしていることも背景にあると思われる。

特に最近は売却プロセスが困難を極める。とりわけ高レバレッジの企業の上場を好まない公開市場では、バリュエーションが低迷しやすい。華やかなテクノロジー・セクターでさえ、未公開株所有企業による新規株式公開の数少ない例は貴重なものだ。(米国のインスタカートは昨年の株式公開から25%下落し、欧州のディーザーは60%近く下落している)。PitchBookのデータによると、かつては普通だったIPOによるプライベート・エクイティからのEXITは、昨年、米国とヨーロッパではEXIT事例の1パーセントに過ぎない。

HGによるヴィスマの所有が示す第二のトレンドは、複数の投資家へのシフトである。プライベート・エクイティ・ファーム間のコラボレーションは、この十数年にわたる新しい特徴である。

さらにHGに代表されるように、共同投資という新しいスタイルも増えつつある。ヴィスマの場合、同社は3、4年ごとに新しい投資家、つまり仲間のプライベート・エクイティ・ファームか、最終投資家である「リミテッド・パートナー」を引き入れている。ノルウェーのこのグループには、現在30人以上の投資家がいる。PitchBookのデータによると、6人以上の投資家が関与した過去4年間のディールは、それ以前の4年間と比べて162%増加している。

もちろん、どの投資家もいつかは出口が必要になる。ナスダックからロンドン証券取引所までの証券取引所は、短期的なIPOが現実的でない可能性があることを認識し、未公開企業の投資家が保有株式をオークションにかけることを容易にするプラットフォームで革新を進めている。ロンドン証券取引所の「intermittent trading venue(非連続的に取引できる市場」は、すでにHGやVismaのような企業を誘致しており、最近相次いでいる上場廃止を相殺するための一つの先進的な方法かもしれない。


それでは今週もご自愛ください。

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