”野蛮人の来襲”は過去の話か -ステークホルダーとのアライメント-

FT記事:Works’ windfall at KKR-owned group shows private equity shiftより

Barbarians at the gateと言えば1980年台後半にかけて話題になったKKRによるRJRナビスコの買収を取り上げた名著です。私の勝手訳ですと”野蛮人の来襲”ということになりますが、PEやバイアウトと言った概念が定着していなかった1990-2000年台に(私も含め)日本人にバイアウトってこういうもんだよ、と教えてくれた貴重な文献でもありました。

当時は米国でも金融資本=PEに対して批判的な見方が多かったようで、産業の破壊者といったイメージで見られることが多かったと思いますが、ナビスコ空軍とも呼ばれた社用プライベートジェットを贅沢に使い回す経営陣を向こうにKKRがどのように同社の買収、バリューアップしていったかが丹念に描かれております。

当時は社会人成り立てだった私ですが、やっぱアメリカはすげえなぁと想像しながら読んでいた自分を思い出します。また映画ですとウォール街ですかね、ゴードン・ゲッコーが”お金は眠らないぜ”と早朝に浜辺を歩きながら話をしていた姿に影響も受けたりしておりました。

日本ではまだ国債の市場ですら閉鎖的で当時のソロモン・ブラザーズを中心とした外資が存在感を見せ始めており、Cash&Carryの裁定取引で莫大な利益を(こっそりと)叩き出していた時代でもあります。当時のトレーダーヘッドだった明神さんはその後本社の副会長まで昇進されておりました(ただのVPとは全然違う、本物のVPです)・・・・すいません、随分脱線してしまいました。

そんな中で今回取り上げるFTの記事は同じくKKRですが、現代の話になります。野蛮人の来襲と騒がれていた時代は時を経て、従業員にも優しいバイアウトになっているという話題。

先月になりますがイリノイ州に本拠を置くCHI Overhead Doorsという会社を30億ドルで売却する事をKKRが発表しました。2015年の投資案件ですが、投資元本に対して10倍以上のリターンをもたらした近年稀に見る成功案件でもあります。1980年代は従業員のリストラ等に焦点が当たったLBOですが、本案件では従業員に対する手厚い報酬が注目を集めています。

一般従業員もKKR買収後に会社業績と連動した特別手当てを毎回数千ドル単位で受け取っており、トラック運転手や製造ライン従業者など625人の従業員に対して(売却により)平均的に17万5千ドル相当の賞与が払われております。KKRによると株式などの供与を通じて社員とのアラインメントを整えることに注力してきた結果、と主張されています。

転職サイトにおける同社向け現役・元従業員のコメントも好意的なようで、格差を助長すると批判され続けている(KKRの従業員の平均サラリーは32万ドルを超えてます)PE/バイアウトですが社会的な責任も踏まえ、全てのステークホルダーのアラインメントを整えることに腐心されている様子

PE/バイアウトによる規律・ガバナンスの強化を活かしながら、従業員向けの厚生を拡充することで良いサイクルを回すことができる、この投資スタイルが社会に根付くとすればもっとPE/バイアウトが受け入れられやすくなっていくのかも知れません。

以外とこういう成功事例のアナウンスメント効果は無視できないと思っておりまして、米国のみならず2000年代のハゲタカと騒がれた買収ファンドの本邦進出からアレルギーが残る我が国でも、イメージ転換のきっかけになるかも?とも感じております。

今後新しく立ち上げるPE/バイアウトファンドの皆様。もしかするとアピールするポイントは”従業員も潤うバイアウト”というコンセプトかも知れませんよ。

それでは今週もご自愛下さい

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