投資戦略

Blackstoneの研究 Part1

オルタナティブ投資運用会社といえば真っ先に頭に浮かぶ、世界的なオルタナティブ運用会社Black Stone Group Inc.さんについて調べてみました。データはすべて10-Kを元に作成しています。(言うまでもありませんが内容の正確性は保証しかねます。その点あらかじめご容赦願います)

1月7日追記:2回目以降は限定公開に移行します。簡単な登録でご覧頂けますので、お気軽にどうぞ。今後も限定記事を増やして参りますのでどうぞよろしくお願いします。(1月21日:2→5回目のみを限定公開に修正しました)

1月18日追記:シリーズは全部で5回になりそうです。

1月19日追記:第5回までアップしました!

第1回:ブラックストーンの生い立ちと業績

第2回:投資残高推移と手数料率を観察

第3回:好敵手KKRを分析する

第4回:さらにはカーライルも分析

第5回:最強の3社を比べてみる

Writer in Chief: Takashi Miura

今回のまとめ

預かり資産、当期純利益も順調に拡大しており、ブラックストーンは現在最も勢いのある運用会社と言える。

投資セグメントは、①不動産、②プライベートエクイティ、③ヘッジファンド、④クレジット、の4分野であり、構成比もバランスが取れている。

特に他の大手投資会社と比べて、不動産などの実物資産残高が大きくかつシェアも高いのが特徴

収益の50%が非キャピタルゲイン収入となっており、収益の安定化に寄与。信用格付けはA+と良好であり、長期安定資金の調達に貢献。DERは0.3倍と低く、バランスシートの抵抗力に優れている

はじめに

ブラックストーングループ(Black Stone Group Inc. 以下ブラックストーン)は、リーマン・ブラザーズを退職したピーター・G・ピーターソン(Peter George Peterson、前職はリーマン・ブラザーズ会長)とスティーブン・シュワルツマン(Stephen Allen Schwarzman,前職はリーマン・ブラザーズ投資銀行本部長)によって1985年に設立された投資会社です。

当初創業者二人の40万ドルの出資から始まりましたが、近年も高い成長率を維持、今や総預り資産5711億ドル、当期利益39億ドルの世界トップの投資会社となりました。

設立当初はブティック型の投資銀行を目指し、M&A仲介などを手掛け、主に手数料収入の拡大を目指しましたが、1987年から本格的にプライベートエクイティ(PE)事業に進出。投資家から預かった資金を使って企業を買収して価値を引き上げ、売却するという投資ファンドへと移行しました。

この成功は、1987年に募集を始めたブラックストーン第1号ファンドで10億ドルの資金調達に成したことに始まります。新規投資ファンドとしては当時過去最大で、既存ファンドの中でも3番目の規模でした。この巨額の資金を背景に様々な投資案件を手掛け、またこの成功が次々と新しいファンドを立ち上げて投資を行う先駆けとなります。

1980年代半ば、こうした投資会社はいくつもありましたが、資金調達力では十分でなく、①買収価格を低く抑えがちであった、②買収した会社の短期間でのリストラを徹底した結果、当該企業が疲弊し、買収先の魅力が低下した、③投資期間に限界があり、長期間での付加価値増大が難しかったなどの理由で、市場でのプレゼンスはあまり高くないという状況だった。

ブラックストーンの成功は、創業者の知名度、信用に加え、資金調達を最重要テーマのひとつとしてとらえ成功したこと、さらに効果的運用を徹底し、実績を積み重ねたことが評価されたことが理由と言えます。

投資分野

ブラックストーンの投資セグメントは、①不動産、②プライベートエクイティ、③ヘッジファンド、④クレジット、の4分野。預り資産の構成比では、一番大きいのがPE(32%)、次いで不動産(29%)、クレジット(25%)、ヘッジファンド(14%)の順となっています。

ブラックストーンの投資分野別構成比(AUM)出典:同社10-Kより 以下すべて同様

それぞれの投資分野の設立年と人員配置、主な投資ビークルは以下の通り

業績

足元の業績は好調で、この5年間で営業収入は年平均12%、当期利益は同24%の伸びを続けています。以下はブラックストーンの業績推移になります。

収入の構成は、概ね運用者から支払われるマネジメント・アドバイザー手数料自身の投資の成功からもたらされるキャピタルゲインである投資収入が50:50となっており、バランスの取れた構造となっています。

ブラックストーンの営業収入構成比

財務諸表からみた成功要因(1)-優秀な人材の確保

経費のうち最大のものは人件費で、営業収入の40%程度となっています。この比率は、大手の銀行と比べて高くなっていますが、これは、大手の銀行が規制対応やIT化に莫大な資金が必要なのに対し、投資ファンドはそうした負担が少ないことがその理由と思われます。このことが、他の経費の節約につながり、人件費率の高さにつながっていそうです。

金融機関の場合、人材の質と給料の高さは比例すると言えるかもしれません。従業員一人当たりの人件費の比較では、投資銀行大手ゴールドマンサックスグループが従業員38,300人に対し、平均322千ドルであるのに対し、ブラックストーンでは従業員2,905人に対し、1,056千ドルと3倍以上です。このようにして待遇を充実させ。優秀な人材を集めることを可能としています。

2018年9月に開催されたBlackstone Investors Dayの資料によれば、役員の平均在籍年数は18年、シニアマネジングディレクターの平均在籍年数は10年となっており、定着率は高いと言えます。新入社員の合格率は0.6%と極めて狭き門で、この難関を突破した優秀な人材を長期間教育し、経営幹部に育てるいい循環が確立しています。また優秀な人材の引き抜きにも積極的で、組織の活性化につながっています。

財務諸表からみた成功要因(2)-堅固なバランスシート

資金調達力が問われるビジネスモデル

投資会社の投資対象は流動性に乏しいものが多く、投資回収まで長期間を要するものが多いと言えます。このため、自社の業績悪化や、金融危機の発生があれば資金不足を起こして破綻するリスクを負う可能性があるビジネスモデルです。

良好な案件を取り込むためには規模が重要で、案件を持ち込む側からすれば、投資会社のお財布は大きいほどいいと言えます。このため、投資会社としては預り資産残高を大きくし、かつ拡大を続けられることが重要になりますが、一方で、預り資産拡大を有利子負債によって実行すれば流動性リスクを拡大させることになりかねません。

流動性リスクを軽減するには手元の流動性を高める必要がありますが、そうすると投資採算が悪化するというジレンマに陥ります。このため、レバレッジなしの投資利回りを如何に高めるか、がポイントとなりそうです。

ブラックストーンのBSの特徴

ファンド連結を除くBSを見ると、資産のうち流動性の高い現預金が22億ドルと有利子負債の47%を占めます。また、有利子負債は社債であり満期は分散されている。DERは投資会社としては0.3倍と低いと言えます(2019年末現在)。

格付けも投資会社としてはトップクラスのA+/A1(要確認)を維持しており、社債による長期安定資金の導入を実現しています。こちらはブラックストーンの貸借対照表(除くファンド連結)になります。

こうした適切なレバレッジ管理が、リーマン危機などの金融危機の時期に適切に機能したようです。流動性の低下による投げ売りでバランスシートを棄損することが少なかった他、他社の投げ売り案件を着実に取得し、将来の高収益資産につなげることが出来たと言えます。

今回はここまで。