裁判所のアービトラージ -米国倒産法-

今週のコラムは随分とマニアックな話題で恐縮ですが、米国倒産法制のお話。

クレジットやネットリース系の運用話を聞くときに、このあたりの背景知識があるとミーティングもグッと盛り上がるという、そんなニッチな話題でもあります。

自分としては米国で破産申請をするような事態は想定していない(今のところ笑)ですが、法廷戦術としてこんなこともあるのか!と彼の地の事情を知っておくことで知識欲を満たしつつ、マネージャー来日の際の空き時間トークにもできそうと期待しております。

なんでこれ取り上げようとおもったの?と聞かれることもあろうかと思いますが、それは・・・私の推し記者”Sujeet Indap”氏の記事だからでした(汗)


FT記事:Houston, we have a problem with US bankruptcy protectionより

1年ほど前の日曜日午後、テキサス州の大手法律事務所のパートナーがヒューストン郊外のUPSストアに足を踏み入れてきた。そこで彼女はカリフォルニアを拠点とする製薬会社の私書箱を設置して立ち去った。

一見何の変哲もないこの作業であるが、企業が破産保護を申請するのに最適な場所を探す際にどれだけの自由度があるか、という法的論争をめぐる話題の中心になっている。

Scintilla Pharmaceuticalsとその大きな親会社であるSorrento Therapeuticsは、UPSストアの私書箱を使い、わずか10時間後にヒューストン連邦裁判所に連邦破産法第11条の適用を申請したのだ

ヒューストンの連邦破産裁判所は、その裁判官が洗練された迅速な法の裁定者であると同時に、債務者の意向に好意的であると考えられていたため、複雑な事件のホット・スポットとなってきた。ヒューストンは債務者とその弁護士にとって仕事がやりやすい場所であったため、テキサス州との結びつきが薄いSorrentoのような企業でさえも乗り込んできたというわけだ。

ソレントの再建は同社とさまざまな債権者との泥沼の争いの末、なんとか裁判所によって承認された。そして連邦破産法第11章からの脱却まであと数週間と見込まれている。しかし今になってテキサス州の住所の由来が突然、米司法省の関心を引くことになった。

米国司法省の破産裁判所関連機関である米国管財人事務所は現在、ソレント社が裁判所に提出した書類の中で、「濫用的な裁判管轄地変更スキーム」を展開し、ヒューストンに不正に着地させたと主張し始めたのだ。

この騒動は、トップ・パートナーが1時間2,000ドル以上の報酬を請求できるようなビジネスを勝ち取るために、法律事務所が積極的な法的助言を展開していることを示す一連の事件の最新版ケースとも言える。

実はこのソレントの騒動はヒューストン連邦破産裁判所を巻き込んだ、より広範なスキャンダルの中で発覚した一例だ。同裁判所のデビッド・R・ジョーンズ裁判長は10月、自身が管轄する事件に頻繁に登場する弁護士との非公開の長年にわたる恋愛関係を認め、辞任した。そのジョーンズ判事が辞任前に担当していたのがソレントでもある。このスキャンダル騒動が、現代アメリカにおける、時に冷酷な大型破産のあり方についての法廷検証の舞台となったのだ。

「ノースカロライナ大学法学部のメリッサ・ジャコビー教授は、「法律とは倫理的な基盤を持つ職業であり、技術的なチェックボックスをチェックするだけでなく、その価値観を実践するものである。「危機に瀕しているのは、これらの会社の評判以上に、システム全体の正当性なのだ」。

米国管財人事務所の申し立ては、この事件の個人請求人であるティモシー・カルバーソンが、ソレント事件の移動または却下を求める申し立てを行ったわずか2週間後に行われた。くだんの郵便ポストは2023年2月からの破産申立書に含まれていた。しかしカルバーソンが騒動を巻き起こしたのは、彼が収集したUPSストアからの物理的なレシートで、その箱が夜間の破産申請のわずか10時間前に設置されていたことを示すものだった。

テキサス州ジャクソン・ウォーカーの弁護士が、クレジットカードで料金を支払っていたのだ。破産法では会社は破産申請の180日前から同地区にいなければならない。カルバーソンは、Jackson Walkerに支払った200万ドルと、Sorrentoの主要弁護士である国際的大企業Latham & Watkinsに支払った2,600万ドルの手数料を取り戻すよう裁判所に要求した。

米国管財人事務所とカルバーソンの申し立てに対し、ソレント、レーサム、ジャクソンは不正行為を否定する答弁書を提出した。彼らの主な弁明は、シンティラは「非営業事業体」に指定されていたため、破産の3日前に開設された6万ドルの預金を持つテキサスの銀行口座と郵便受けは、破産法の精神はともかく、文面を満たすには十分であったというものである。ソレントとその弁護士は、その戦術に不満のある者は不満を米国議会にぶつけるよう、手厳しく提案した。

今回の騒動を通じてジャクソン・ウォーカーの法律事務所としての信頼性はすでに疑問視されている。ジョーンズ判事の秘密の恋愛相手は、ジャクソン・ウォーカーの弁護士だったのだ。破産管財人は、ジャクソン・ウォーカー法律事務所がその関係を破産裁判所に開示しなかった約二十件の訴訟で支払われた1,300万ドル以上の報酬の取り消しを求めている。ジャクソンは不正行為を否定し、これらの取り組みに異議を唱えている。

一方、ソレントような分かりやすい事例においては、どのような企業でも裁判所への申し立てを完了する直前に銀行口座と私書箱を開設するだけで、本社や事業所、本籍地から遠く離れた場所でも破産申請が可能である、という事例は今後も長く争われることになる。


それでは今週もご自愛ください。

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