Unsung Song – 水面下でもがく清算人の闘い- 

世の中には紙面には登場しない数々のヒーローたちが存在することに疑いの余地はありませんが、こと金融業界になりますと「そもそも目立ちにくい・わかりにくい」業界でありますゆえに、パフォーマンスがすごい!いくら儲かった!などで有名になる事例が目立つかと思います。

それはそれですごいことだと思うのですが、特定分野で卓越したスキルを持つが紙面を賑わせる事がない「必殺仕事人」的な人のストーリーを見かけるたびに、自分はこっち側かも?と理想像と重ね合わせるのであります。

本日は「リストラ仕事人」の話題。GFCの引き金(正確にはベアー・スターンズだと思いますが)となったリーマンブラザーズのアジアビジネスの清算人であったエディとティファニーの二人のストーリー。複雑な事業構造と何層にもわたるデリバティブが絡み合ったビジネスを迅速、いや神速とも言えるスピードで処理した二人組が、またビッグ・ディールに戻ってきました。

今度のターゲットは中国の不動産大手、エバーグランデであります。まさに強敵、いや裏ボス的な大物です。


FT記事:Lehman liquidators face tough task picking through the wreckage of China Evergrandeより

エディ・ミドルトンとティファニー・ウォンがリーマン・ブラザーズの広大なアジア事業の清算に携わったとき、それは彼らが引き受けることになる最大かつ最も複雑な仕事に思えたに違いない。

それから15年後、世界で最も負債を抱えた不動産デベロッパー、中国のエバーグランデが破綻した。

米コンサル会社アルバレス&マーサルの2人は、判事からエバーグランデの香港上場持ち株会社の清算人に任命された後、早速エバーグランデの元監査人であるPwCに対する訴訟の準備を始めたところだ。それでも彼らはウォール街の銀行の財産を分配した時とは全く異なる難題に直面している。

過去のリーマンのケースでは、彼らは資産を売却するために迅速に動き、債権者に分配をもたらした。しかし、エバーグランデの資産のほとんどは中国本土にある。これらの資産に対して債権を主張することは、法律的・政治的に複雑な問題をはらんでおり、海外の債権者が中国本土から多額の債権を回収できる可能性は低いと思われる。

しかしながら1980年代初頭に設立され、企業再建の世界ではリーマンの米国事業を清算したことが名刺代わりとなっている米国のコンサルタント会社A&Mにとっては、極めて重要な案件である。

当時、ミドルトンとウォンはKPMGに勤務し、ウォール街の銀行のアジア事業の整理を担当していた。

A&Mは過去5年間、中国のリストラクチャリングと倒産処理事業を大幅に強化する一環として、2人を採用した。10年前にはこの市場でほとんど存在感を示していなかったが、今ではビッグ4のライバルを抑えてエバーグランデの仕事を獲得している。

2人の元同僚は、「A&Mが香港からリストラクチャリングビジネスを獲得することに成功すれば、何年もの間、まったく揺るぎない存在になるだろう」と語っている。

中略

200億ドル以上のエバーグランデの債権を保有する世界中の投資家やその他の債権者のために資金を回収することは、リーマンの破綻にさらされた投資家への返済の経験からは別次元の難易度となる。

世界中に散らばったリーマンの事業体には、不動産やデリバティブなどの金融商品など、債権者に現金を返還するために売却できる資産が十分に記録されていた。(訳者注:エバーグランデには十分な取引記録が保管されていない可能性がある?)

ミドルトンはリーマンの清算を「スピードと攻撃性」をもって処理し、銀行破綻から数日以内にアジア太平洋地域のフランチャイズを野村證券に売却することに合意した、と元同僚は語った。清算人であれば、”何年も居座って手数料を稼ぐこともできるが、彼はそういう男ではない”。

ミドルトン氏とウォン氏は、エバーグランデの中国本社を説得し、オフショアの債権者と取引することもできる。しかし、清算命令を本土で認めさせたいのであれば、本土の裁判所から判決を勝ち取る必要がある。2021年の取り決めでは、香港の清算人は上海、深セン、アモイの試験的な裁判所に承認を申請することができるが、申請が成功した例はまだほとんどない。

仮に2人が本土での判決を勝ち取ったとしても、2人が代表する債権者に返済するための資金は残されていないかもしれない。

「香港でリストラを専門とするある弁護士は、「清算人に組織全体について何が起きているのか情報を提供できる人物を特定するのは難しい」と述べた。「そして、仮にすべてが順調に進んだとしても、どこまで(彼らに)価値が残るのか疑問符がつく。

その代わりに、2人は香港で請求できる資産や、破綻した企業の清算人がターゲットにすることが増えている、エバーグランデの躍進を支えたプロフェッショナル・ファームなど、それほど複雑ではないターゲットに焦点を当てるかもしれない。

中国の投資家あるいは中国国内のケースであれば、ティファニーが主導権を握る傾向がある」と弁護士は言う。「国際的な投資家がいる場合は、エディがその関係をリードするようだ」。

清算人には、倒産した会社から最大限の価値を引き出そうというインセンティブがある。通常、清算人には財産から報酬が支払われるため、現金がほとんど回収できなければ損失を被るリスクがあるからだ。

それでも、彼らは慎重に行動しなければならないだろう。2人と仕事をしたことのある香港のリストラ専門家は、「中国に乗り込んで資産を手に入れる」という考えは「全くの夢物語」だと言い、中国本土で清算命令が適用される可能性を疑っている。そんなことは起こらない


引き続きご自愛ください。

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