債券投資の賢人が語る -AIと資産運用業界-

株式投資の賢人と言えばウォーレン・バフェットさんが挙がると思いますが、債券投資の中では?というと様々な名前が挙がってくるのではないでしょうか。それは債券市場の広さと複雑性を表すことでもありましょう。

私の中ではマイケル・ミルケン、ニコラス・ラニエーリ、マイロン・ショールズ/ロバート・マートンなど過去”革命”と言えるような変革をもたらした人物に続き、”賢人”カテゴリーで上がってくるのが元PIMCOの知恵袋、Mohamed El-Erianさんです。歴史的なコンテクストを踏まえつつ、現代債券市場の特質を語ってくれる稀代のストーリーテラー。

そんな彼が資産運用業務とAIの可能性について語ってくれています。今日はそちらに注目してみましょう。


FT記事:How Gen AI will change asset managementより

ジェネレーティブAIが、雇用破壊と雇用拡大の両方をもたらす大規模な破壊的イノベーションであることに疑いの余地はない。両者のバランスは、資産運用が知らず知らずのうちに「実証実験」の役割を果たすようになってきている現在、注目の話題でもある。

ジェネレーティブAI革命(Gen AI)がこの業界でどのように展開されているかは、雇用の議論だけでなく、金融、医療、そしてそれ以外の分野にも影響を与える、より広範な組織や規制のあり方にスポットライトを当てるものだ。

まずAI革命の最も顕著な側面のひとつは、まだ始まったばかりだということだ。その主な推進力であるコンピューティング・パワー、データ、人材、資金は、その破壊的な力を際立たせる規模とスピードで複合化している。AI革命が、ますます多くの企業やセクターの最高経営責任者の最重要課題となっているのも不思議ではない。

資産運用は、Gen AIが業界の運営や組織のあり方に一連の変化をもたらすと期待されている分野のひとつである。すでに、最も機敏な企業によって、業務効率の向上、コミュニケーションの改善、サイバー攻撃からの保護に活用されている。そして、これは始まりに過ぎない。

投資チームも顧客対応チームも、能力を伝えたり、新しい取引のアイデアを正当化したりするためのプレゼン用パワーポイントを驚くほど簡単に準備できるようになった。重要で時間のかかる義務である、顧客へのリターンとパフォーマンスの帰属の伝達は、より迅速かつ正確に行われるようになった。また、技術チームは、増加するハッキングの試みに対抗するため、より多くのツールを自由に使えるようになった。

これらすべてのケースにおいて、AIは労働力を強化する。従業員ができることを補強し、付加価値カーブを上昇させる手助けをするのだ。定型化された低スキルの作業で雇用が失われることはあっても、労働への全体的な影響はプラスであり、特にエンジニアの雇用が増えることが予想される。AIエンジンと話す方法を知っていることは、新しいスタッフにとっても、既存のスタッフの多くにとっても不可欠なスキルとなる。

さて、将来を展望しよう。AIエンジンが、アセット・アロケーション、モデル・ポートフォリオ、証券選択、リスク軽減といった、より高度なスキルを要する業務に不可欠な存在となる世界を想像するのは難しくない。このようなエンジンは、このセクターに存在し、現状ではほとんど活用されていない膨大なデータセットを使って訓練されることになるだろう。

テクノロジーの進歩を考えれば、実際のデータとバーチャルなデータを組み合わせて学習させた新しい資産クラスの構築や構成に、AIツールが役立つことも想像に難くない。時が経てば、資産運用の最もダイナミックで成功した部分は、AI世代のツールと、重要なことだがAI世代ネイティブの新しい機能を組み合わせることになるだろう。それに伴い、顧客のリスク許容度や行動傾向に合わせて、個々の投資口座をより洗練された方法でパーソナライズできるようになる。

しかし、その道のりは険しい。既存の能力は完璧とは言い難く、人材は均等に配置されていない。その適用には偏りがある。AIを内部で取り締まるのは誰なのか、また、どのような広範な国内規制や国際規制がAIを管理することになるのか、まだ明確な答えは出ていない。また、中国とアメリカの間で技術スタックの分断化が進んでおり、この現象は深まる一方である。

これはまた、業界の構造に大きな破壊をもたらす道でもある。AIの破壊的な力とその潜在的な応用を理解するのが遅れている企業は、特に人材、経営の俊敏性、データの整理の面で、追いつくのがますます難しくなるだろう。早い時期にしか得られないであろう飛躍的な機会を活用できなければ、その差は広がるばかりだ。

このような動きを総合すると、業界のトレンドは、一握りの超大手企業と、より多数の小規模なニッチ・プレイヤーという構図へとさらに押し進められることになる。中堅の運用会社、運用資産1,000億ドルから5,000億ドルの運用会社、そしてAIに遅れをとっている企業は、統合を迫られるか、単に萎縮することになるだろう。ここで雇用崩壊が起こるのだ。

アセットマネジメントが直面していることは、金融や医療など他の分野でもさまざまな形で繰り返されるだろう。これは、企業にとっては危険を顧みず無視できない現象である。また、銀行を重視するあまり、ノンバンクに対する理解と監督に遅れをとっている規制当局にとっては、プレッシャーとなる現象でもある。


それでは今週もご自愛ください。

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