本コラムで取り上げることが多いFT記者のSujeet Indapさんですが、察するところ倒産法制に通じたスペシャル・シチュエーション好みの記者ではないでしょうか。クレジット好きな自分としては、彼の記事が上がるとワクワクしてくる私ですが、本日の記事も「おお!そうやって事業を理解すればいいのか」という目から鱗の記事であります。
取り上げるのは北米を中心に展開するレンタカー運用会社Hertzと中古車販売業社Carvana、その違いを理解するのは”ストック”と”フロー”というお馴染みのコンセプトなのでした。
FT記事:Hertz and Carvana on different tracks as used-car world steadiesより
パンデミックにより混乱した中古車市場は、突然新しい車が必要になったアメリカ人にとって苦痛でしかなかった。工場閉鎖と半導体不足の両方が引き起こした新車不足が理由で、購入希望者はすでに製造され道路を走っている限られた台数の車を求めて慌てふためいた。
そんな最中で注目された2つの企業が、自動車大不況で急騰した。レンタカー会社のHertzは、パンデミックの初期段階である2020年に破産を申請していたが、たった1年で2つのプライベート・エクイティ・グループの間で繰り広げられた激しい入札合戦の中、破産前の規模を上回る70億ドルの企業価値でチャプター11から脱却した。そして新興のオンライン中古車販売業者であるCarvanaは、2021年に時価総額500億ドル近くに達し、その年の中古車販売台数は前年比75%増の42万5,000台に達した。
2年後、経済は全体的により健全な均衡に達した。しかし、より安定した自動車市場は、意外にもこの2社にとって過酷な道のりとなった。
ハーツは、少なくとも部分的には、中古車価格に高度にレバレッジをかけた賭けをしていると考えることができる。パンデミック(世界的大流行)の初期、旅行者の減少により中古車価格が暴落した際、同社は車両価格を担保とする多額の借入のマージンコールに対応するための資金が不足していた。
1年後、供給不足のため、同社が顧客に請求できるレンタル料は急騰した。同時に、自動車の価値が高騰していたため、通常の減価償却費は逆に利益となった。この2つの力によって、ハーツの営業利益は急上昇した。ハーツは、こうした傾向がいずれ逆転することについても率直に語った。案の定2023年、ハーツ株は50%近く下落した。ホスピタリティ企業は一般的に、これまで鬱積していた「リベンジ」旅行が和らぎ始めたことで打撃を受けている。
しかし、ハーツは特定の戦略的選択によっても打撃を受けている。同社の支配的オーナーであるプライベート投資会社Knighthead CapitalとCertaresは、2025年までに保有する50万台の車両の4分の1を電気自動車にしようとしている。しかし、直近の四半期では、このシフトは痛手となった。EVは予想以上に事故や破損が多く、修理費がかさんでいたのだ。
テスラがEVの新車価格を引き下げたことで、残存価値も急落し、減価償却費も上昇した。ハーツは、電気自動車の経済性は長期的には有利に働くと主張している。しかし、2021年の幸福な日々は遠い昔のことのように思える。
ハーツが実質的に中古車のストックビジネスだとすれば、カーバナはフロービジネスといえるだろう。消費者や卸売業者から車を買い取り、できるだけ早く販売し、価格スプレッドを獲得しようとする(Carvanaは70日以内に車を販売しようとする)。同社の株価は2021年に360ドルのピークをつけたが、金利上昇で中古車需要が急減したため、2022年後半には4ドルまで下落した。2021年でさえ、同社は全国的な在庫と物流事業の構築とマーケティングに数十億ドルを費やしたため、利益とプラスのキャッシュフローは乏しかった。
しかし、年間10億ドルの経費を削減する猛烈なコスト削減計画により、カーバナの株価は今年30ドルまで回復している。
自動車販売台数はピーク時に比べてまだ落ち込んでいるものの、収益性は過去最高水準に達し、営業利益とキャッシュフローはわずかにプラスに転じている。Apollo Global Managementを含むウォール街の積極的な企業は、カーバナがより持続可能な軌道に転じつつあることを確信し、カーバナと共同で債務再編を行った。
それでは今週もご自愛ください。