投資戦略

Blackstoneの研究 Part2

世界的なオルタナティブ運用会社Black Stone Group Inc.さんについての独自調査、第2回目です。

データはすべて同社10-Kを元に作成しています。(言うまでもありませんが内容の正確性は保証しかねます。その点あらかじめご容赦願います)

Writer in Chief: Takashi Miura

今回のまとめ

預り資産残高は高成長を続けており(GAGR5年平均14%)、2019年末で5711億ドルに到達。ここ5年で成長率が最も高いのはPEで同21%。次いで不動産(同15%)、クレジット(同15%)の順番

手数料を徴収できる預り資産は、全体の70%から80%の間で推移中。新規ファンド立ち上げをコンスタントに行いながら安定収益を上げている

PE、不動産などのアセットクラスでは手数料率は概ね維持できており、手数料徴収預かり資産全体の手数料率も2019年で0.86%と良好な水準を維持

預り資産/自己投資倍率は20倍程度で、全体の投資額のうち、概ね5%程度の自己資金投資を行っている。この比率の低さはブラックストーンの収益の安定化に貢献(別途KKR等と比較予定)

投資会社の収益構造

投資会社の収益の源泉は預り資産です。一般的に流動性の低い資産に投資を行い、投資回収までの時間が長期にわたるので、いかに新規ファンドを継続的に立ち上げ、投資とエグジットのバランスを取りながら成長を続けるかが投資会社にとって最も重要な経営課題となります。その点で、最近のブラックストーングループ(Black Stone Group Inc. 以下、ブラックストーン)は大成功を収めていると言っていいでしょう。

ブラックストーンの預り資産残高は高成長を続けており(GAGR5年平均14%)、2019年末で5711億ドルに達しました。中身を見ると、ここ5年で成長率が最も高いのはPEで同21%。次いで不動産(同15%)、クレジット(同15%)となっています。一方、成長率の低いのはヘッジファンドソリューションで同5%となっています。

預かり資産残高の推移

投資に対する意思決定

投資判断

ブラックストーンにおける投資は、基本的に投資委員会での決定を経て実行されているようです。上位者が判断を集中的に行う商業銀行のスタイル(直列的判断)と異なり、多面的な分析を可能にする一方、責任の所在を組織に置き、投資の結果が悪くても個人的な責任を問われない仕組みにしています。(本記述はSシュワルツマン氏の自著"What it Takes"などの関連書籍も参照しています)

このことは優秀な人材を確保しておくことに重要らしく、直列的判断基づく投資には、上位者にベネフィットが集中する一方で、投資判断の責任を問われかねません。そうなるとどうしても勝ち逃げを意識して、短期間での実績を狙う傾向が出てきてしまいます。合議制に基づく意思決定を維持することで、長期の視野に基づく投資を可能にしているそうです。

手数料体系

預り資産に対して支払われる手数料には以下の種類があります。これらは投資会社のキャピタルゲイン以外の主な収益源となっていますが、キャピタルゲインの実現には時間もかかり金額の変動も大きいと言えます。それ以外の手数料が安定的に入ることがブラックストーンの強みとなっています。

マネジメント・アドバイザー手数料

手数料は大きく分けて1)マネジメント・アドバイザー 2)パフォーマンスの二種類に分けられていまして、開示資料では1)がさらに3つのカテゴリーに区分されています。

マネジメント手数料:投資成果に拘わらず、キャピタルコミットメント、投資金額、ファンドの評価額などに応じて支払われる手数料

アドバイザリー&トランザクション手数料:取引に際して発生する手数料で基本的に取引完了時に徴収するが、アドバイスの都度、あるいは取引完了後のモニターに際して徴収する場合もあるもの

インセンティブ手数料:幾つかのファンド、特に不動産ファンドに関して導入されている手数料です。好成績を実現すれば利益の一部が還元されます。

パフォーマンス手数料

一方こちらはファンドが案件エグジットするまでの評価益に対する手数料です。思ったよりも全体手数料に占める割合は小さいのだな、という発見がありました。

手数料を徴収できる預かり資産

ブラックストーンの場合、手数料を徴求できる預り資産(注:パフォーマンスが不良だと手数料をもらえない)は、全体の70%から80%の間で推移しており、新規のファンド立ち上げをコンスタントに行いつつ安定収益を上げています。

アセットクラス別にみると、ヘッジファンドソリューションの手数料預かり資産比率が高く、エグジットまでのCFが少ないPEの比率が低いと言えます。

手数料を徴収できる預かり資産の比率

 

マネジメント手数料率

ファンドが受取るマネジメント手数料率は投資家からの引き下げ圧力が強いと言えます。ブラックストーンにおいても、比較的コモディティ化が進むクレジットの分野においてマネジメント手数料率は低下傾向にあります。しかしながら、管理が難しく、また案件組成にブラックストーンの優位性が働くそれ以外のアセットクラスでは、数料率は概ね維持できており、手数料徴収対象となる預かり資産全体の手数料率も2019年で0.86%と良好な水準を維持しています。

今後、クレジットに関しては引き続き引き下げ圧力は続くとみられますが、その他のアセットクラスに関しては概ね現状水準を維持できるのではないでしょうか。

ブラックストーンの手数料率の推移

投資残高

ブラックストーンの投資セグメントは、①不動産、②プライベートエクイティ、③ヘッジファンド、④クレジット、の4分野ですが、過去5年間の投資残高を見ると、2017年のクレジット傾斜と翌年の反動、そして2019年におけるPEの急増が特徴的です。

2017年のクレジット急増は主に、BIS(保険ファンド)での投資拡大、Harvest Fund Advisors の買収などによる。2019年のPE急増は、2019年1Qにクローズした新規ファンドの立ち上げによるものと思われます。

資金の流出入

ちなみに戦略ごとの資金流出入状況は以下の通りです。全体的に不動産、クレジットをベースにしつつ、状況を見ながらPEをレイズしており、それぞれの投資サイクルの違いをうまく活かしている印象ですね。ただしヘッジファンドソリューションに関しては、現状大きな成長は実現できていないように見えます。

自己資金投資の考え方

実はファンド運用会社も自己勘定を使った投資を行ったりします。今後調べようと思っているのですが、確かKKRはこの分野を積極的に実行、つまり自己勘定の投資比率が高かったように記憶しています。ブラックストーンの預り資産/自己投資倍率は20倍程度で、全体の投資額のうち、過去の平均をみると概ね5%程度(1/20)の自己資金投資を行っています。

ただ、年によりこの比率は変化しており、2017年にはクレジットを中心に自己投資を積み上げています。その後クレジット資産のリリース(売却)により自己投資割合を引き下げ、現在は5%を下回る水準にまで低下しています。

自己資金を使わないで他人資本を使って投資を行う方が業績は安定すると思いますので、この比率の低さがブラックストーンの収益安定化の鍵であり、他者との違いにみえてきます。

本日はここまで。