ベンチャー投資だけどバイアウト? -新しいVC投資のあり方-

金利が上昇するとディスカウントレートが上がる。仮に売上が停滞しCF一定のままであるならば企業の現在価値は縮小する。これが教科書で習った理論だと思いますが、ことVC投資においてはそれを痛感させられた2023年ではないでしょうか。

そんな中で新しいVC投資の萌芽が観察されるという今日の話題。これは正常進化なのか、それとも金利変動期という端境期における一時的な現象なのか。一部の投資家が見出すのは”バイアウトを通じたVC投資”という解

これまではマイノリティー投資家にとどまることで、起業家の独立心=アニマル・スピリットを尊重しながら企業の”サポーター”として伴奏してきた従来のVCから一歩踏み出し、過半数を支配することでオーナーとなり新興企業を経営するファンドのお話です。


FT記事:VC market disrupted as investors buy out start-upsより

一部の投資家たちがベンチャーキャピタルに敬遠されてきた新興企業を買収するために資金を調達し、ベンチャーキャピタル市場そのものを揺さぶり出した。

2022年までの数年間、ベンチャーキャピタルは、たとえすぐに収益化できる見込みがなくても、成長が見込まれる新規事業に少数株主として出資してきた。過去1年間の金利の急上昇はこの状況を一変させ、未公開企業の評価に打撃を与え、VCは撤退を余儀なくされ、多くの新興企業が破綻の危機に瀕している。

そんな中で新たな投資グループは、事業を立て直すために新興企業の過半数の所有権と経営権を取得することを目的として、数千万ドルの資金を調達している。まだ初期段階ではあるが、この傾向は、従来のベンチャー投資が冷え込む中、多くの企業が困難に直面していることをさらに示すものだ。その一例として、投資家のOren PelegとEyal Malingerは、新興企業を買収するために1億2,000万ユーロを調達する目的で、英国を拠点とするResurge Growth Partnersを今年立ち上げた。

ハワード・マークスのオークツリー・キャピタル・マネジメントやVCのBeringeaなどの会社で働いた経験のあるベテラン投資家たちは、市場のギャップに目をつけ、平均1000万ユーロから3000万ユーロの投資を計画しているという。Resurge Growthは、以前の評価が高すぎて新しい市場の現実を反映していなかったり、経営改革が必要であったりするため、事業転換を提供する目的で新興企業を買収する。

ベンチャー企業の所有権をPEファンドの所有権に移行することを促進するという、非常に重要な役割を果たすチャンスがここにはある」とペレグ氏は言う。「誰もリセットが必要だという厳しいメッセージを送ろうとはしない。」

Matthew Bradleyのような他の投資家も、ベンチャーキャピタルから離れ、新興企業の買収を追求している。ロンドン上場のVC、Forward Partnersの元最高投資責任者であるBradley氏は、新興企業を買収するために昨年Tikto Capitalを立ち上げた。また、サンフランシスコを拠点とするArising Venturesは、2020年の設立以来、ビジネスモデルは実行可能だが成長が鈍化している新興企業の買収を狙っている。最高経営責任者のKjerstin Ericksonによると、この1年で潜在的な取引の数は5倍に増えたという。

今年、ファンドというより持ち株会社として構成されているこのグループは、サンフランシスコの中心部に ” We invest in second chances “ というスローガンを掲げた看板を出した。

ベンチャーキャピタルは今年、活動を劇的に縮小しており、第3四半期には世界中でわずか730億ドルしか投資していない。市場調査会社PitchBookによれば、これは前年同期の1060億ドルから減少した。その一方で、PEファンドに売却されるベンチャー企業の数は、ここ数年でエグジット全体の24%にまで増加しており、その割合は2006年から2010年にかけての3倍になっている

しかし、ジェフリーズでプライベート・エクイティを担当するスコット・ドリッグスによれば、新興企業に対する売却圧力が高まる一方で、VCがリターンを確定するかどうかで揉めるため、ディールは停滞している。「いったんドアが閉まり、損失が確定してしまうと、もう後戻りはできません。

投資家は、景気減速が長引き、資金繰りに行き詰まる企業が増えるにつれ、このようなバイアウトの需要が高まると予想している。「2024年には、我々の資本に対する需要がさらに高まるでしょう。なぜなら、一方で起業家は、この会社をスクラップとして売却すべきか、それとも閉鎖すべきか、という選択肢に直面することになるからです」。と Resurge のマリンガーは言う。「私たちはこの会社に別の選択肢を提供できると思います」


それでは今週もご自愛ください。

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