“Private Equity Put”という言葉 ー非上場化を見据えた投資スタイルー

FT記事:
Elliot/Western Digital: puts and takesより

当社Diagonalを起業したのが2020年10月。それまで外資系運用会社で経験してきたオルタナティブ投資ですが、これをもっと広げたい!という気持ちが爆発してしまい(笑)起業まで至った私ですが、そうなりますと日々反応する話題もつい、オルタナティブ投資関連になってしまいます。感度がすべてそちらに振り切れておりますね。

でございますので、FT紙面を眺めていますとやはりその手の話題が目につきます。本日のコンセプトは”Private Equity Put”という聞き慣れない概念です。ヘッジファンドの大手であるElliotWestern Digital社の株式、約10億ドルを取得した話題から始まります。

国であれ企業であれ訴訟を厭わず、法制度・ガバナンスの乱れをついてくる事で有名なElliotですが、FT記事によると今回の戦略は”PEによる非上場化・業界再編を見越した事前投資”という整理になろうかと思います。ことが起こるまえにお金を置いておく=Putという語感イメージでしょうか。

Elliotの主張としてはWDのビジネスを分割し、コングロマリット・ディスカウントを解消せよ!というものでありますが、端を発したのは2016年のSanDisk買収(約190億ドル相当)でした。これはフラッシュメモリー事業部門の売却を梃子に企業価値を高める戦略でありますが、今回の投資カタリストはPEプレイヤー達の参入であります。

Thomas BravoVistaClearlakeなどテクノロジー分野に強いPEプレイヤーがドライパウダーを余らせている中で、Elliotの投資を呼び水とした”業界再編・非上場化を促進させるために10億ドルを使ってみた”というのが解釈が可能になる投資です。

事が起これば株価に対してプレミアムを乗せて買収されると予想されてますので、Elliotの投資視点としては”どの会社であれば非上場化の対象になるだろうか?”という事。そのためには清算価値に対して割安であり、できれば利益を継続して出していける企業が望ましい。WDは企業価値は200億ドル程度ですが、売上に対して1倍を少しだけ上回る。ただし粗利は3割以上改善しているにも関わらず、です。

フラッシュメモリー事業部門は売上の0.4倍程度の評価にとどまっており、単体でも1倍程度あるでしょ!というのがElliotの評価に対して相当な割安状態。現状株価はあるべき姿の半分程度に低迷していると分析した上で、10億ドルの手金を投じてみた、と整理致します。

この低迷するテクノロジー関連企業に資金を投じ、業界再編ありきで、いやむしろ起こすべく行動を起こしたElliot。まさにPrivate Equity Put=PEプレイヤーの動きを先読みした投資について目が離せないのであります。そして当然ながらこの波はBain Capitalが主導するキオクシアにぶつかっていくのであります。

東芝本体の非上場化に注目が集まっておりますが、Elliotが主導するフラッシュメモリー/ハードディスク業界の再編が日本にも波及していくと予想されます。やっぱりきたか!!ぜひその話題に触れた際にはこのコラムを思い出してもらえると嬉しいです。

それでは今週もご自愛ください。

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