運用会社

KKR: バイアウトファンドの先駆者

バイアウト業界の老舗KKRを掘り下げてみます

ブラックストーン特集でライバルとして比較したKKRさん。

正式名称はKohlberg Kravis Roberts&Co.(以下KKR)ですがご存知の通り、誰もが認める元祖PEのビッグネーム。1976年の創業で、すべてのバイアウト投資会社は同社にルーツがあると言っても過言ではないと思います。

KKRも独立して記事にしてほしいとの声が聞こえてきましたので、新しく記事を立てる事にしました。特集と重複する部分も多々ありますが、利便性ゆえ何卒お許しください。

本記事は同社の10-Kおよびその他公開情報に基づいております。正確性は保証できない点、予めお許し頂けますと幸いです。

Writer in Chief: Takashi Miura

KKRの特徴は4つ

自己投資の割合が大きい

KKRを眺めてまず気づくこと。それは自己投資の割合が他のライバル達と比べて大きいことです。あえて言わせて頂くと業績の変動性が高く、バランスシートもそれなりに変動する印象があります。

AUMは順調に伸びている

過去5年間の預り資産残高を見てみると、2015年以降で年平均15%と高い伸び率を維持しています。

業績は2016年に底打ち

業績は2016年にから回復し、2019年には営業収入、投資利益とも前年から大きく伸び、大幅な増益を達成しています。

バランスシート:負債比率は少し高め

AUM/自己投資勘定倍率は10倍程度でして、ブラックストーンやカーライルと比較して高いと言えます。自己投資資金の不足分を借入金で補うため、直近では負債比率が0.9倍程度にまで上昇しています。

以上4つ特徴を踏まえつつ、少し細かいところまで掘り下げていきたいと思います。

まずは資産運用の状況から

AUMの推移

KKRは投資セグメントを大きく2つに区分しています。①プライベート②パブリックですが、プライベートは主に企業投資インフラ不動産などの実物資産投資、パブリックは主にクレジット資産です。まずはその預かり資産、いわゆるAUMの推移状況から見ていきましょう。

KKRのAUM推移

KKRのAUM推移

過去5年間のAUM推移を見ますと、年平均15%と高い伸び率を維持しています。好調ですね!

特に伸び率が高いのはクレジットを中心とするパブリック部門でして、年率18%の増加。PE、実物資産を中心とするプライベート部門の伸び率は13%となっています。

資金の流出・流入状況

全体的には好調なのですが、部門別、そして年度別に見ていくと少し様子が異なります。

KKRの資金流出入状況

資金の流入・流出状況(ネット値)

年度毎に結構出入りが激しいのですね。部門としてはパブリック資産の増え方が目立ちます。おそらく世界的な金利・スプレッド縮小を受けてレバレッジド・クレジットと呼ばれるバンクローンやハイ・イールド債部門の伸びが貢献していると思われます。

そして意外や、意外。プライベート部門は2017年の伸びに助けられておりますが、それ以外は全体的にはフラットで伸び悩んでいるように見えます。ブラックストーンやブルックフィールドが過去5年でプライベート部門を増やした(買収等を差し引いたオーガニックな伸びでも)ことを考えると、余計気になります。

報酬をもらえるAUM割合

全体の伸びと部門毎の資金フローを見たところで、運用会社にとって重要な指標のひとつである”報酬を請求できる資産”がどれくらいあるか調べてみました。(注:パフォーマンスが振るわないと報酬を請求できない資産になります)

Fee対象資産

AUMにおける報酬を請求できる資産の割合

報酬を請求できるAUMは全体の70%から80%の間で推移しています。2017年に一度70%にまで低下していますが、2019年には74%にまで回復しています。

先ほどプライベート部門の資金流入が細っている点に触れましたが、上記割合が低い=パフォーマンスが低迷していた事と関係しているかも知れません。

全体的にはパブリック部門が貢献し、報酬請求できる預かり資産の割合は伸びていますが、ただしパブリック側は報酬引き下げ圧力が強いと思われますので、プライベート側のパフォーマンスを引き上げて報酬対象となる資産を増やせるかどうかが今後のカギと思われます。

利益創出能力を探る

さて、これまで資産側を見てきましたが、KKRの利益創出能力はいかほどのものか。掘り下げていきましょう。

冒頭のまとめでもお伝えしましたが、業績は2016年から回復して2019年の当期利益は46億ドルに達しています。

全体収益のトレンド

2018年は手数料を主体とする営業収入の落ち込みがありましたが、投資利益の増加と人件費の抑制でカバーして小幅な減益で抑えた模様。2019年には営業収入、投資利益とも前年から大きく伸び大幅な増益を達成した、という最近の流れです。

KKRの収益推移

KKRの収益推移

ここで面白いのは業績が投資損益によって大きく変動”していた”構造が、2016年以降は手数料の収入比率が高まり、投資利益とのバランスが取れだしているという点。結果として業績の安定性が向上していますね。

運用報酬と成功報酬の内訳

KKR収益分析

営業収入(手数料収入)と投資利益のバランス

KKRの収益分析のカギは”2016年前と後で分けて考える”という点かも知れませんね。

自己投資の状況

KKRの特徴は自己投資を積極的に行っていることでした。預り資産/自己投資勘定倍率は10倍程度で、総投資額の10%を自己投資していることになります(2015年は会計基準変更前で非連続)以前の特集では”セイムボート性が高い”と表現した所です。

預り資産/自己投資勘定倍率

AUM/自己投資勘定の推移

ここでちょっと頭が混乱してきました。

AUM/自己投資倍率は低下基調ではあるがそれほど大きく変動していません。だけど先で触れた”営業収益と投資収益の比率”グラフを見ると営業収益の貢献度がグンと上がっている。この関係がうまく説明できないなぁと悩んでいた所、ヒントが見つかりました。

ちょっと気をつけておきたい点

2016年に会計基準が変更され自己投資残高が半減しているのです。

そこからPEに対する自己投資がガクッと減っている。細かい点ですがちょっと気をつけてみておきたいです。

自己投資資産の内訳

自己投資資産の内訳

最後にバランスシート

自己投資資金につき、不足分を借入金で補っているので負債比率はやや高め。直近では0.9倍程度にまで上昇しています。ただし信用格付けはA格を維持していますので、長期安定資金の調達には問題ないかと思われます。

KKRのバランスシート

バランスシートの状況(2019年決算期)

ちょっと不鮮明で申し訳ないですが、一番下のDERを見ていただくと負債比率の上昇トレンドが伝わってくるかと思います。

バイアウト業界の先駆者に感謝

RJRナビスコの買収では”野蛮な来訪者”として世間の糾弾を浴びた同社でしたが、長い年月をかけてバイアウトファンドのステータスを引き上げた貢献者。先ほどホームページを拝見したところ、なんと753,000人もの雇用を投資先を通じて抱える大会社です。年金受給者だけでなく、社会的にも不可欠な存在といっていいのではないでしょうか。

今回はここまでとします。

本日もよい1日をお過ごしください。