運用会社

カーライル: ワシントンDCに陣取るバイアウトの巨人

首都ワシントンに陣取るPE界の巨人

ブラックストーン、KKRとくれば外せないのがThe Carlyle Group Inc.(”以下カーライル”)さん。泣く子も黙る?PE業界のトップ企業です。たまたまWikiを眺めていたところ、社名についてはマンハッタンのホテル”The Carlyle Hotel"から名付けられたとか。

参照元はMARR誌のインタビューとされていますが、創業者の一人であるルービンシュタイン氏いわく「みんながよくやるギリシャ・ローマ神話の神様の名前なども考えたがどれもしっくりこず、上品だしファッショナブルでもあるので」という理由だったそう。今や”Carlyle”と聞けばこちらをイメージする人が多いでしょう。

余談ですが、ルービンシュタイン氏は対談の名手でもあります。Bloombergの特番"The David Rubenstein Show"は飾らないお人柄と、鋭く急所に切り込む鋭敏さに圧倒されるエンターテイメントです。お時間あればご覧ください。

さて、今回の記事もブラックストーン特集と重複がありますが、単独記事の利便性ゆえお許しください。また情報はすべて10-Kやその他公開情報によるものです。毎回の事ながら正確性については保証できませんでお許しを。

Writer in Chief: Takashi Miura

カーライルの特徴も4つ

AUMは横ばい

三大投資会社の一角を占めるカーライルですが、ここ数年は預り資産残高が伸び悩んでいます。理由については後ほど考察します。

成功報酬の貢献度が高い

業績の変動が比較的大きく見えます。2019年の当期利益は12億ドルと前年比大幅に増加しましたが、2016年、2018年の利益は大きく落ち込んでいます。ファンド成功報酬が業績を大きく左右する収益構造になっているようです

自己投資は控えめ

大手3社の中で自己投資比率が高いのはKKRでした。カーライルは3社の中で一番低く、AUM/自己投資倍率は30倍程度です。

バランスシートは健全

財務体質は健全。2017年の業績が好調だったことから純資産が積み上がり、直近ではDERは0.7倍程度にまで低下しています。

資産運用の状況

カーライルは投資セグメントを4つに区分していまして、①PE ②実物資産 ③グローバルクレジット ④インベストメント・ソリューションとなっています。

運用資産の状況

まずはカーライルの運用資産から見ていきます。4つのセグメントからなるAUMのスナップショットをご覧ください。

CarlyleのAUM分布

2019年末時点のAUM構成

分布をみて頂いた所で、時系列での増減を観察します。PEが全体の約4割。

AUMの推移

年度毎のAUM推移

意外かも知れませんが、過去5年間の運用資産推移を眺めてみると2015年以降、あまり変化していないのです。PEは年率6%で増加していますが、グローバルクレジット、インベストメントソリューションは流出超となっています。

戦略毎のAUM

それを別の視点で確かめてみましょう。

戦略毎のAUM推移

戦略毎のAUM推移

それにしても2016-2017年のグローバル・クレジットの落ち込みは何だったのか。今回は原因を特定できないのですが、他社がクレジット資産を増やしているのとは対照的。もう一度手元の数字を見直した方がいいかも知れない。

後ほど説明しますが、2016-2017年でグローバル・クレジット部門は手数料率も大きく上昇していて、流動性の高いバンク・ローンやハイ・イールドの戦略では達成できないフィー水準を獲得しています。もしかしてディストレスト・クレジットなどの流動性の低い戦略にシフトしているのでしょうか?

報酬をもらえるAUMの割合

手数料を請求できる運用資産は、全体の57%から75%の間で推移しています。

2016年に一度57%にまで低下しましたが、2018年には74%にまで回復、2019年も70%台を維持しています。ただしブラックストーンはもちろんのこと、KKRと比べても少し低い印象です。

Carlyleの報酬対象AUM

報酬を請求できる運用資産の割合

先ほど指摘したグローバル・クレジットですが、2016年は全体の34%しか報酬を請求できていなかった。それが翌年2017年になると跳ね上がっています。見方を変えるとこんな感じに。グレーの線です。

報酬を請求できる運用資産の割合

報酬を請求できる運用資産の割合

あまりにも変化が大きすぎるので、私の計算が間違っている可能性があります。ここはちょっとスルー気味でお願いします(汗)。

利益創出能力を探る

冒頭お伝えしたようにファンドの成功報酬が同社の利益水準を予測するカギになりそう。ファンドのパフォーマンスをあげて成功報酬を頂くことが運用会社でしょう!というカーライルの哲学が伝わってきます。

PLの推移図

収益の推移

これをブレークダウンしたのが以下の図です。

営業収益の内訳

営業収益の内訳

運用報酬と成功報酬のバランス

マネジメント手数料が運用報酬、投資利益がリターンに紐づく”成功報酬”とご理解ください。

収益の内訳

営業収益の内訳

やはり投資利益=ファンド成功報酬の割合が高いですね。別の特集で触れたBrookfieldは収益の85%が運用報酬でした。

屋台骨のPE部門

戦略別にみるとPEが安定して営業利益の多くを稼ぎ出していて、実物資産と併せた貢献度が高いと言えます。グローバル・クレジットやインベストメントソリューションの利益貢献は低下中です。

戦略毎の利益推移

戦略毎の営業利益

手数料率の推移

面白い開示資料があったので、戦略毎の手数料率推移も眺めることができました。

戦略毎の手数料率推移

戦略毎の手数料率推移

全体的には下がっているのですが、各戦略毎の特性が浮き彫りになりますね。(注:やはりグローバル・クレジットの変動が説明できないので参考までにさせてください)

バランスシートの堅牢性

KKRに比べると高くはないのですが、自己投資も行っています。その不足分を借入金で補う構造になっていますが、2017年の業績が好調だったこともあり直近ではDERは0.7倍程度にまで低下しています。

バランスシート

Carlyleのバランスシート

自己投資は控えめ

AUM/自己投資勘定倍率は30倍程度でして、総投資額の3%程度しか自己投資していないことが分かります。

やはり業績は運営するファンドのパフォーマンス=成功報酬の影響が大きそうです。

AUMに占める自己投資比率

AUMに占める自己投資比率

 

今回はここまで。本日もよい一日をお過ごしください。