厚みを増していくPEセカンダリー市場

日本でもGPが主導するセカンダリー案件、いわゆるGP-led型のセカンダリー案件が増えてきておりますが、世界的にもセカンダリー市場が更なる活況を呈しております。

従来はLPがファンド持分を売却するLP-led型が中心でしたが、そちらは手元の流動性懸念や、将来の値下がりリスクを危惧して売るものが多かったと思います。それに対してGP-ledにおいてはファンド期限に左右されずにバリューアップ期間を延ばせるという「アップサイド」を狙って行くパターンが多いのではないでしょうか。

これについては過去ファンドにおけるGPキャリーをどの程度実現化させるか、そして後継ファンド”Continuation Fund“に当該実現キャリーをどの程度いれていくか、そしてContinuation Fundに移すアセットの評価額をどのように定めるか、何ていうところが重要な論点となります。

さて、本日取り上げるFT記事は上場株の評価が下がったことで、ポートフォリオ・アロケーション上のプライベートアセット比率が増加してしまい、泣く泣く売却を迫られている投資家の話。パブリックとプライベートの時価評価のタイミングのズレに起因する「新しい理由」に基づくセカンダリー売却が見えてきました。

GFCの時にはそれほど普及していなかったプライベート投資ですが、こうした形でセカンダリー取引がさらに加速して行く、という話題です。


FT記事 Investors sell stakes in buyout funds at a record paceより

投資家は今年、プライベート・エクイティやベンチャー・キャピタルのファンドの株式を過去最速のペースで売却している。それは株式の低迷が、低金利時代に活況を呈したプライベート市場にも波及しているためだ。

ジェフリーズによると、今年上半期にプライベートファンドの株式を売却したのは、年金基金や政府系ファンドなどであり、前年同期の190億ドルから330億ドルに増加し、額面を下回る価格で売却するのが一般的と伝えられる

この一連の売却トレンドは、金融危機以降に影響力を強め、バイアウト企業からベンチャーキャピタル、不動産ファンドまでを網羅するプライベートマーケットへの配分が急増したここ10年につながるものであり、プライベート・マーケットをグローバルなディールメーキングにおける主要な勢力に変貌させた資金調達力を維持する能力に疑問を投げかけている。

年金基金によれば、株式市場の急落が引き金となり株式投資を中止する動きによって、ポートフォリオ全体がバイアウト・ファンドや他の民間投資のアロケーションを増加させており、その価値が同じように下がっていないため売却せざるを得ない、ということだ。ある年金基金のプライベート・エクイティ担当者は、保有するバイアウト・ファンドの一部を割引価格で売却したことについて、「これまでこんなことをする必要はなかったし、こんなことをする必要がないことを望んでいた」「今年と来年は、新規のプライベート・エクイティ・ファンドへの出資額も減らすつもりだ」と述べている。

バイアウト企業に資金を投入していた年金基金は、過去2年間、ディールメーキングの熱狂のために、予想をはるかに上回る速さで実際に資金を調達しなければならなくなった。プライベート・エクイティに投資しているある基金の幹部によれば、このことが資金繰りの悪化につながったという。投資家は「資金繰りが完全に悪化し、売却を始めなければならなくなることを必死に心配しており、今すぐ株式を売却してその場をしのごうとしている」と同氏は言う。「分配金(取引の成功によって投資家に還元される金)は過去5年間、信じられないほどのペースだった」ので、投資家はこの状態が続き、ファンドに対する新たな要請に応えることができると考えていたと、彼は言う。「なのに今は、ほとんど投資を止めざるを得ない」。

簡単に売買できる上場証券とは対照的に、プライベート・ファンドへの投資は通常約10年間固定され、その価値は高度な”推測”プロセスを用いて決定される。しかし、これらの流動性の低い株式の保有者は、他の年金基金や政府系ファンド、あるいは「セカンダリー」ビジネスと呼ばれる専門家グループに、流通市場で静かに売却することができるのである。ジェフリーズによれば、これらのニッチな投資グループは、このような取引のために調達された約2,270億ドルを保有しているという。

ジェフリーズによれば、プライベートファンドの古い持分を定期的に売却している投資家もいるが、今年の取引の約半分は初めて売却する投資家であった。このような売却は常に下半期に多く、このパターンが繰り返されれば、今年は記録的なものになる可能性がある。同社によれば、バイアウト、ベンチャーキャピタル、不動産ファンドの株式は、上半期に額面のわずか86%で売却され、コロナウイルスの大流行が始まった市場の混乱期以来、最大のディスカウントとなった。さらにベンチャーキャピタルファンドの株式は、直近の評価額の71%で売却されており、金利上昇と景気後退への懸念が、しばしば不採算となる新興企業を支援する投資家の意欲をいかに抑制しているかを物語っている。

なお、プライベート・エクイティ・グループは通常、投資家がファンドの存続期間終了まで株式を保有した場合、より多くの利益を得られると見積もっている。しかし、ファンドが成功した取引からすでに十分な返済を行い、プラスのリターンを得ている場合もあるため、売り手は必ずしも全体として損をするわけではない。


それでは今週もご自愛ください。

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