インドに投資する前に:2016年の破産法改正

2021年1月27日付FT記事 Oaktree’s Indian setback raises doubts on new bankruptcy code

本来であれば今日はGameStopショートスクイーズに触れたいのですが、それは他の方にお任せしましょう。

投資ファンドMelvin Capitalがショートしていた銘柄が”見事に”踏みあげられております。全く他人事に思えない、運用するものであれば背筋が凍る出来事、いや事件と言わせて頂きます。

本日はそれと全く関係ないインドのニュース。何でインド?ってことになるのですが、それはクレジット投資家には見逃せない「破産法制」に関するニュースが目についたからです。

インドでは2016年に新しい倒産法制が導入されていた

私が以前在職していた会社では、欧州のディストレスト投資についてこんな例えをしておりました。

ビールを飲む国はよし。ワインの国は避けるべし。

これは倒産法制・判例、そして司法システムのことをさしております。

英国・ドイツなどのビール主体の国は倒産法制がしっかりしており、事業リストラも容易(ただしドイツの雇用については別論)で投資しやすい。

ところがワイン主体のフランス、スペイン、ポルトガルあたりは倒産法制も未整備、あるいは手続きが遅く、事業リストラに手間と時間がかかりIRRが伸びないぞ、という例えであります。

もちろんスペインあたりも意識をもって倒産法制を拡充してきたかと記憶しておりますので、足元の事情は変わっているとは思いますが「リストラ」に対する社会の受容性そのものは大きく変化しないのかもしれません。

それでいて、大国インドはどうだったのか

そして視点はインドに移ります。東アジアの倒産法制については参考図書も多いので、そちらをご参照頂くとして、インドであります。

冒頭に触れた2016年の破産等改正を受けてOaktreeなどの大手ディストレスト投資会社が進出しておりましたが、2019年の企業倒産事例が大きな試金石となりました。

Dewan Housing Financeがきっかけ

この会社の破綻をご存知な方がいらっしゃれば脱帽です。同社はインド最大の不動産デベ向け「開発資金の融資会社」です$14Bnもの負債を抱える同社の倒産事例に対して、改正された倒産法が適用され注目を集めておりました。

結果的には失望が残った

Oaktreeを始めとする投資会社が破綻したDHFをめぐって2020年1月から始まった入札に参加しました。コロナ禍の影響で売却プロセスが度々延期され、何度も選考を重ねたことで1年以上経過。

インドの財閥Piramal GroupAdani Group、香港のクレジット投資会社SC Lowyなども入札に参加しての争奪戦が展開されたのが昨年11月。

結局Adani Groupが提出した札が最高値となり勝利。ただし他の競争相手からは「締め切り後に提出された札で、不公正」との指摘もなされています。

結局5回の入札競争を経てPiramalが勝った訳ですが、Oaktree側は自分たちの札がPiramalを上回っており、国内資本を優先し外資を排除するものだと訴えています。

法制度はあれども運用面は課題だらけ

Oaktreeのレッスンから学べるインド。それは法制度だけでは投資対象としてワークしない、という事ではないでしょうか。つまりは運用する過程において不透明性や障壁が存在する。名手Oaktreeですら一筋縄ではいかないインド。

新興国への債券投資が拡大しておりますが、ソブリンのリストラ作業とは異なると言えども(リストラ巧者のアルゼンチンのような例)、コーポレートのデット・リストラ作業についてはインドにおいて改善すべき点が多々あるように見受けます。

それでは本日もよい一日を。

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