影の主役 -現代のAladdinは魔法のランプにあらず

FT記事:
BlackRock/Aladdin: lamping the competitionより

今週もつい目に止まってしまったの運用会社BlackRockの話題。FT名物コラムLEXに掲載された記事を読みながら、Fintechとはスタートアップだけの話題にあらず、との思いを強くしております。むしろ、大手がFintechを推進すると圧倒的なパワーを発揮するという事実に刮目すべきでありましょう。

ここでBlackRock社が世界最大の運用会社であることは間違いありませんが、立ち上げ直後はBlackstoneの傘下にあったことをご存知の方は意外と少ないかと思います。この辺りのストーリーはBlackstone創業者のS・シュワルツマン氏の著書”What it takes”を読むと面白いのですが、投資銀行を辞めて行き先を考えていたラリー・フィンク氏に対してシュワルツマン氏が”だったらビジネスプランもっておいでよ”と誘い、自分達でも出資して立ち上げた会社がBlakcRockでした。

その後シュワルツマン氏の見込み通り、BlackRockは大きく成長を遂げるのですが、ビジネスの進め方をめぐって衝突がおこり株を売却することになります。シュワルツマン氏も述べていますが、”ビジネスで後悔があるとすれば、あの売却だった。売らなければ世界で圧倒的な運用会社を作れたはずだ”と述べていらっしゃいます。両者とも圧倒的な成功を収めていますが、確かにこのコンビが実現していたらヤバいですね笑。

さて前置きが長くなりましたが、本日の話題はBlackRock社が提供するポートフォリオ管理システム”Aladdin”の話。すでにユーザーとしてお使いの方も多いかと思います。アラジンといえば魔法のランプと怪人(アカデミー賞で話題となったウィル・スミス氏が映画版で演じておりました)と相場が決まっておりますが、BlackRockのAladdinは”Asset, Liability, and Debt Investment Network“の略称でして、かなり強引なこじつけ感がありますが笑、要はポートフォリオのリスク管理ツールを意味します。

元々は同社の社内管理ツールとして開発されたものですが、いまや年間13億ドルもの収益をもたらす、外部経済性発揮しまくりのマーケティングツールとなっております。4年前と比較すると2倍の収益、10兆ドルのAUMを誇る同社の収益に対して7%を占めるまでになっております。

BlackRock reckons the addressable market for Aladdin could be as much as $10bn.

FT LEX

Aladdinにはまだまだ拡大余地があり、市場規模は100億ドルを同社は見込んでいるそう。2019年にeFrontを買収しており、その技術基盤をさらに強化中。これのニクいところはパブリック市場だけでなく、プライベート市場の商品、つまりオルタナティブ投資の管理ツールにも拡張できる点。

このような成功事例であるが故に、LEXコラムは少し心配をしております。
占有率の高い米国を中心に(記事も指摘していますが)多くのファンドマネージャーがAladdin経由で資産管理を行うことで(同じリスク管理を通じて)似たような投資動向・投資判断につながるかも知れない。万一、Aladdinの計算自体に間違いがあった場合は大きな市場ショックにつながるかも知れない、との懸念であります。

BlackRock社のコメントによると、ユーザーは多くのカスタマイゼーションを行った上で使用しており、皆が同じ原理原則で動いている訳ではない、つまりは一斉に市場を動かすような投資動向につながることはないのではないか、と考えているようです。

さて、この大手が開発するFintech。もうすでに圧倒的なパワーを発揮しておりますが今後更に浸透していくのでしょう。これまで市場を揺るがしてきたVaRショックあるいはリスク・パリティショックなど、投資家が機械的にポジションを削減することで発生した、大きな市場ショックを経験してきましたが、もしかすると”Aladdinショック”があるかも知れない。

その場合は、市場全体、少なくとも米国のマーケットがパブリック・プライベート双方で揺さぶられる事になるかも?この投資家の群行動による市場の連動性は頭にいれておきたいな、そう思う記事であります。

それでは今週もご自愛ください。

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