銀行規制:理解の難しさ、それが問題だ

GFCの真っ只中でもがいた経験がある皆様であれば、シラー・ベアーと聞いて、おお!あのFDIC総裁だったベアーさんですか。と呟くことでしょう。時のポールソン財務長官・ガイトナー連銀総裁が提案したPPIPに真っ向から反対した(とされる)傑物であります。

ちょうど手元にポールソンさんの手記”On the Brink”があったので、ぱらぱらとページを見返したところ、ベアーさんに対してこんな記述がありました。

I’d had a constructive relationship with Sheila, working closely with her on housing issues, about which she had many ideas. She had exceptionally good political instincts. We usually agreed on policy, but she tended to view the world through the prism of the FDIC- an understandable but at times narrow focus.

という感じで、預金者保護を頑として譲らない、石頭ぶりがチクリと風刺されていますwww。

それでも、GFCから14、15年が経ち様々な検証がなされる中で金融の中枢にいた方のコメントは重いものがあります(主義はともかく)。そしてその彼女はバーゼル規制委員会の主要メンバーでもあったのですが、SVBに代表される銀行破綻における規制の役割についてコメントを寄せています。今日はその言葉に耳を傾けてみたいと思います。


FT記事:The truth about proposed bank capital rulesより

筆者は米国連邦預金保険公社の元議長で、バーゼル銀行監督委員会の元メンバーである。

米国の規制当局は最近、国内最大手銀行に対する自己資本規制を強化するための抜本的な新規則を提案した。これは、バーゼル委員会と呼ばれる国際的な規制グループが、世界金融危機後に初めて実施した改革を改良・改善するために、複数年にわたる熟慮を重ねた結果である。当時、金融システムの資本不足が深刻化し、世界経済は危うく屈服するところだった。

残念なことに、その目的と効果については誤解があり、その多くは業界擁護派によってもたらされた。提言は完璧ではないかもしれないが、誤解ではなく、実際に何をするのかに焦点を当てて議論することが重要である。

提案の中心は、銀行が自己資本規制を設定する際に独自の内部モデルを使用することを事実上廃止することである。いわゆる内部格付に基づくアプローチは、金融危機の際に大失敗した大手銀行には、リスクを過小評価するモデルを採用するインセンティブがあり、そうすれば自己資本規制を引き下げて株式リターンを高めることができるからだ。金融危機後、規制当局は内部モデルの使用に制限を設けたが、信頼性に欠けることに変わりはない。提案されている規則は、規制当局が決定する標準化されたリスク測定に置き換えるものである。

また、システム障害やサイバー侵害、不正行為などによる業務上の損失に備えるための資本も強化される。さらに、証券やデリバティブ取引の市場損失に対する資本バッファーを強化する。

批判的な人々は、この提案を、最近の地方銀行3行の破綻に対する過剰反応であり、中堅・中小の金融機関に不釣り合いな打撃を与えるものと誤解している。これは事実ではない。この提案の主な影響は、より大規模で複雑な銀行に及ぶだろう。規制当局の試算では、資産規模7,000億ドル以上の米国最大手銀行の自己資本水準は19%上昇するが、1,000億ドル以上7,000億ドル未満の銀行は6%しか上昇しない。1,000億ドル未満の銀行は、大規模なトレーディング業務を行っている一握りの銀行を除いて影響を受けない。

批判的な人々はまた、自己資本規制は銀行が貸し出すはずの資金を拘束するという飽き飽きした議論もしている。自己資本規制は、銀行の資金調達における自己資本と負債の比率を規定するだけである。銀行は、レバレッジを効かせるのと同じくらい簡単に、自己資本で融資資金を調達することができる。

いずれにせよ、今回の提案はオペレーショナルリスクと市場リスクに対する自己資本規制を引き上げる一方で、貸出の意思決定から生じる信用リスクに対する規制は実際には若干引き下げられている。規制当局の試算によると、ほとんどの銀行はすでに規制を遵守するのに十分な余剰資本を保有しており、そうでない銀行も2028年半ばの発効日までに規制を満たすだけの利益を確保することは容易である。

この提案は、バーゼル委員会の合意よりも厳しい基準を課すものだとして攻撃されている。しかし、このような「金メッキ」は米国の資本規制の長所であり、短所ではない。米国の規制当局がより弱い基準を採用し、それが裏目に出た顕著な例外がある。資産規模7,000億ドル未満の銀行に対し、自己資本を計算する際に売却可能投資の含み損を考慮することを求めなかったのである。この弱体化した自己資本の枠組みは、国債への大きな賭けが不調に終わった際、預金流出に陥りやすい銀行を生み出した。

銀行業界は、米国の住宅ローンに関する自己資本規制がバーゼル委員会の規制を採用していないことに失望を表明している。これは低所得世帯への住宅ローン融資に打撃を与えると主張している。金融危機の際に大量の住宅ローン債務不履行が発生したことを考えると、米国の規制当局は賢明にもこの案を却下した。いずれにせよ、低所得者向け住宅ローン融資の大半は、この提案の対象ですらない(資本水準が高い)ノンバンクによって行われている。

この提案に関する正当な懸念のひとつは、その複雑さである。内部モデルの使用を廃止することは、現行の資本フレームワークを簡素化するのに役立つが、提案では、既存の基準に基づく単一の資本計算で十分であるにもかかわらず、大規模な銀行は2組の複雑な資本計算を行う必要がある。願わくば、規制当局が規則を簡素化し、一般の人々がより理解しやすいものにする方法を見出してほしい。しかし、将来の金融危機から米国および世界経済を守るためのこの大きな取り組みから得られる多大な公益を損なうことがあってはならない。


引き続きご自愛ください。

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