Jane Streetという会社を知っていますか
正直に言います。全く知りませんでした。
FT特集 Wall Street's unknown trading powerhouseで初めてその存在を知りました。すごい会社じゃないですか!
(ほぼ)毎日配信しているブログでお伝えしようかとも思ったのですが、あまりの衝撃だったので特集記事に格上げしてお伝えします。
Jane StreetなしではETFが機能しない
Jane Street Groupは市場参加者以外には、殆ど知られていないのではないでしょうか。ですが2020年には$17Tnもの証券売買を行ったETFを得意とする世界最大級のマーケット・メイカーです。
BnのタイポじゃないですよTnです。つまり17兆ドル=1700兆円の証券売買をやってるんですよ!
ちなみに2020年前半の営業利益は、全世界の金融機関におけるFICCが稼ぎ出した利益の7分の1を同社が占めています。あれだけ儲かった全世界のFICC収益プールの約15%です。
いや、そりゃゴールドマンとかJPモルガンとか聞いた事あるけど、Jane Streetってどこの通りだよって感覚だった自分が恥ずかしいです。(ちなみに写真もいいものが見つからず、文字通り”Jane Street”の標識)
OCamlというプログラム言語を駆使する、やや秘密結社めいたマーケットメイカーである、この会社に今日は迫りたいと思います。私の目標としては:
1 だれがどういう経緯で会社を作ったのか
2 どんなビジネスモデルなのか、その収益源を知りたい
3 この後も優位性を築いていけるのか
このあたりに大変興味があります。さて、それではETFの中でも特に”Bond ETF”に強みを持つとされる、この会社をみていきましょう。
3人のトレーダーと1人のプログラマーから始まった
2000年に創業されたこの会社ですが、HPやFT記事を参照しながら進めていきます。
どうやらオーナーシップ、つまり会社の所有形式や経営スタイルが随分と変わった会社のようです。
それは四人の男から始まりました。三人のトレーダー、Tim Reynolds, Michael Jenkins, Rob Granieriという有名ファンドSusquehanna出身で、もう一人はMarc GersteinというIBMの技術者。
その四人が始めた会社はオプションとADRを手がけるビジネスからスタート。そこからトレーダーとプログラマー(coder)が次々と加わっていく。その一人がYaron Minsky、会社に対して”OCaml”というプログラム言語で統一せよ!と働きかけた人物です。
それ以来同社は25百万行におよぶ大量のプログラムにて稼働し、その半分がLarge Hadron Colliderで書かれている(すいません、書いている本人が意味わかってないです)。
OCamlが一つの特徴
FTのインタビューに答えている、OCamlの導入者Minsky氏に言わせると「水準以上のトレーディングシステムを作る事はすごく怖いこと。だから安全性を高めるためにたくさんの事を決めたよ。OCamlという言語は目指すものを実現するコードを書くためにとっても便利なんだ」
CEOがいない 経営委員会もない
創業者四人の中で、唯一残っているGranieri氏はCEOでもなく、FT記事によると30-40人の非公式グループで会社の意思決定が行われている様子。対外的には肩書きがあるようですが、社内では殆ど気にされない。面白いのは一定の間隔で”ローテーション”つまり人事異動があり、常に新しい人々同士が働けるようにしている点。ちなみに社員数1000人ぐらいの会社です。
ETFビジネスへ進出したのは偶然だった
主戦場としていた取引所のAmexがNYSEから買収されたことで、自然とETFを向いたビジネスを始めた。”There was no master plan about moving into ETFs, we typically just don't make quantum leaps like that." 無理はしない会社だよ、と話すのはアジアのビジネスを牽引するJeff Nanneyさん。
リスクを減らすためならお金を捨てる
またこの会社はリスク、特に市場のテール・リスクを取ることに臆病で、毎年$50-70MMもの資金を費やしてプット・オプションを絶え間なく買い続けている。市場が大きく下落した時でも安心してトレードを執行し、流動性を供給できるようにという企業文化です。創業者Granieri氏はこう話します。
We think of ourselves as mainly built for crises.
この会社の強みは売買執行力だった
さて、少しずつですが、この会社の姿が見えてきました。
では二番目のテーマ、収益性について調べてみます。数字が続きますので、まとめてみましょう。
市場ストレスが最高点に達した2020年3月は1日の平均売買高は$33.5Bnで前年の3倍
Jane Streetは米国Bond ETF市場の取引高に対して約3分の1という高いシェア
2020年最初の半年の営業利益は$6.3Bn。前年同期間比1000%上昇。全世界のFICC収入の7分の1に相当
同時期のCitadel Securitiesの2倍以上の収益
JPM・MS・Citiと並んでFEDの社債買付プログラム対象ディーラーに追加された
2600のETFにおいて公認参加者であり、うち506においてはリード・マーケットメイカー
ちょっともうお腹いっぱいっすね。呆れるほどすごい、というのがよくわかりました。
だけど、なんでそんなに強いのか。もうかるのか。ここに触れずにはいられない。
アルゴリズム売買と経験豊かな人間トレーダーの判断を組み合わる
彼らの強みはBond ETFという特定の市場に最適化されたアルゴリズム売買執行能力とトレーダーの旺盛なリスクテイクにありそうです。トレーディング資本は$15BN程ですが、秒単位の保有期間が通常である他HFTプレイヤーと異なり、証券の保有期間が”かなり”長いんです。
時には数週間ポジションを持つことが許容されるようです。これがETFのNAVと市場価格のズレを解消する時に相当効いてくる。ある時には会社で$50Bnもの証券保有高があったそう。
ドッドフランク法が施行されて以来投資銀行の保有在庫・リスクテイクが減少し、価格調整・吸収能力の低下が懸念されてきましたが、5兆円もポジションで抱えられる同社のすごさ。市場参加者のコメントが私の疑問に答えてくれています。
テクノロジーを重視する会社はたくさんあるけど、Jane Streetはトレーダー気質が勝る会社だと思う。彼らはニッチな市場において、流動性が低いETFを誰よりもうまく値付けする
今後の優位性
これについては一言で締めさせて頂きたいと思います。
If you think the fixed income ETF market is systemically important, then Jane Street is systemically important.
ある同業者のコメントです。感服しました。
本日もよい一日を。