地方に潜む狩人 -First Citizens Bank-

皆様であればSVBのビジネスと今後の流れをご存知かと思いますが、意外と知られていないのが米国ビジネスの受け皿となったFirst Citizens Bankそのもの。

JPM/Citiなどと違って日本人に馴染みのない銀行がどうしてFDICが主導した入札で勝てたのか。さすがはFTできちんとその背景を解説してくれてまして、なんとも出自の面白さに注目せざるを得ないのです。


Financial Times記事: “First Citizens builds presence by pouncing on distressed banks”より抜粋

以下記事より抜粋

Silicon Valley Bankが連邦預金保険公社に差し押さえられる1週間前、買収することになった金融機関は、19世紀にノースカロライナの田舎にあった1つの支店から米国最大の銀行王朝の1つに成長し、創立125周年を祝っている真っ最中であった。

そしてそのFirst Citizens Bankは月曜日の朝早く、FDICが仲介したSVB買収のためのオークションを落札し、3世代にわたる家族経営のもと、業界の激変を利用してバランスシートを拡大し、オーナーに数十億ドルの富をもたらした。

破綻したSVBから1,100億ドルの資産(約700億ドルの貸付金と400億ドルの現金)を引き受けることで、First Citizensのバランスシートの規模は2倍以上の2,190億ドルになる。これにより、First Citizensは全米第16番目の資産規模を持つ銀行となり、連邦準備制度理事会がシステム上重要であるとみなす基準のすぐ下に位置する規模である。

その歴史は1940年代の名作映画「素晴らしき哉、人生」に登場する架空の小規模金融機関に似ているところがある。1898年、資本金1万ドルで Bank of Smithfieldとして設立され、顧客の大半が農場で働くジョンストン郡で唯一の貸金業者だった。最高経営責任者のフランク・ホールディングは、銀行の支店でさまざまな役職を経験した後、2008年の金融危機の際に叔父のルイス・ホールディング(現在は故人)から引き継いだ。

(中略)

評論家のTimyan氏は、SVBの買収を「トランスフォーメーション」と呼ぶ。「ホールディングは規模を2倍に拡大し、SVBを160億ドルのディスカウントで購入した」と彼は述べ、First Citizensの落札価格は、SVBの帳簿上の資産価値を約15%下回った水準にあると指摘している。ちなみにホールディングは、妹のホープ・ブライアント(同銀行の副会長)、義弟のピーター・ブリストウ(同銀行の頭取)とともに、過去20年間にFDICの所有から10以上の銀行を買収しており、また、上場している金融機関を買収しようと敵対的な試みも行ってきた。

また、フィナンシャル・タイムズの推計によると、ホールディング一族はファースト・シチズンズを支配し、そのメンバーは約20億ドルの株式を所有している。そしてSVBの買収後、同行の株価は月曜日に50%以上上昇し、一族に5億ドル以上の利益がもたらされた。

統合される2つの銀行は、全くと言っていいほど違う。SVBはシリコンバレーの新興企業やその投資家のための金融機関であり、彼らは銀行で多額の残高を持ち、取引を円滑に進めるためのクレジットラインから大型住宅ローン、さらにはワイナリーへの融資まで、多くの融資商品を提供した。一般的な預金者は、連邦政府の保証で保護されている25万ドルよりもはるかに高い残高を持っており、同行の預金のわずか3パーセントしか保険に加入していない

一方、ファーストシチズンズは、SVBの約30倍にあたる550の支店網を展開している。この金融機関は、米国南東部の小さな町の顧客を主な顧客としている。FDICのデータによると、First Citizensの預金の70%近くは保険に加入しており、「粘着性」があるため、SVBが破滅したような銀行の経営破綻にはそれほど脆弱では無い。また、ファーストシチズンズは、金利の上昇に伴ってコストが急上昇しているホールセール資金に依存しているわけでもない

(以下省略)


結局は銀行の資金調達構造、あるいは預金者の「質」が今回の勝負の分かれ目になったアメリカの資本市場。

あまりにも情報が飛び交い、拡散していくスピードが早くなってしまい、銀行側も打つ手がないまま信用不安が拡大したのが今回の騒動でしょう。

その中で力を発揮したのは粘着質な「田舎の個人資金」を裏付けとした調達だったというのは、なんとも皮肉な話に聞こえます。

ちなみにこちらはあのCIT Groupも20億ドルで買収してるんですよ!ただの地方銀行のラッキーパンチ、ではないことがお分かりいただけたかと思います。

今後は先鋭的な現代風の銀行だけでなく、地道なリテール王道を進む田舎の(失礼!)金融機関が台頭していくのか??いつの時代もやっぱり目が離せないのが米国資本市場であります。

それでは今週もご自愛ください。

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