存在感を増していくPrivate Debt

FT記事:
Private lenders step in to salvage public bond dealsより

市場変動が高まる中で、果してPrivate Debt戦略はどのような動き・変化を見せるのか

GFC後に花を咲かせたダイレクト・レンディング戦略ですが、誕生して初めての金利上昇・市場変動局面を迎えております。その初テストに対して(今の所ですが)どうやら「合格点」がついているようです。

先日のコラムでも触れましたが、市場が振れている時にはどうしてもリスク資産の取り手が減ってしまうのが市場の常。特に企業買収において実現を左右するハイイールド債券ですが、どうしても発行・購入が滞ってしまうというのがこれまでの常でありました。

今回の局面も同様でありまして、金利上昇局面が続くかもという不安もあり相当な逆風に晒されております。ハイイールド債券を束ねたCLOの買い手となる金融機関や公募投信の購入意欲が低下してしまうのも止むを得ない局面にあるかと思います。

そんな中で間隙を埋めに動いているのがPrivate Debtプレイヤーたち。今回のFT記事ではApolloやAresの名前が出ておりますが、エポックメイキングとも表現できる巨大ディールの組成に成功しています。

消費者動向調査で有名なNielsenの買収は160億ドル規模であり、BrookfieldとElliottという一見反りが合わなそうな?チームで進行中でありますが、そこに一撃20億ドルのデットを供給したのがAres。私の知る限りでは米国のミドルマーケットにおいて大層を占める10-30億ドル規模のファンドと比較して、1案件で20億ドルというのは相当なインパクトを感じます。元々はパブリック市場でデットを調達する予定でしたが、予定通り行かない中でプライベートへの切り替えが奏功

また同じくBrookfieldはソフトウェア会社CDKの80億ドル規模の買収においてもGSAMから9億ドルのデットを調達。この場合は公募によるハイイールド債調達と組み合わせているようで、プライベートとパブリック双方からのデット調達を今後は”ハイブリッド”と呼称していく様子。FEDの引き締め観測で公募投信から資金流出が続く中で、新規ハイイールド債を買いづらい環境の中、どうやらPrivate Debtレンダーの存在感が増していきそうです。


その強みとなるのはドローダウン型の資金調達。言い換えますとコミットメント型で調達した潤沢なドライパウダーを利用して、大規模案件の美味しいところをすかさず狙っていく巨大ファンド。従来はJPMやCitiの牙城だったシンジケート・ローンの領域まで踏み出そうとしております。

今後の注目としてはイーロン・マスク氏が主導するTwitter買収において、巨大な”ハイブリッド”型のデット調達が予想されています。3年で上場させると話すカリスマのリーダーシップに導かれ、さらにPrivate Debtの大型化が加速すると考えますが、ここでご注意いただきたいのは業界における棲み分けです。

つまりはAresやApolloのように巨大ディールにおいて相当額のユニトランシェ(ストレッチ・シニア)をドカンと出していくプレイヤーと、ファンド規模を抑えつつミドルマーケット(EBITDA25-100MM)をコツコツ狙っていくプレイヤーとの境界線がより鮮明になってくると考えます。

投資家としては”リスク調整後リターン”を考えつつ(プライベート市場でも当然ながら変動はあります)し、当初のコンセプトであった”流動性プレミアム””情報の非対称性”を一番享受できる運用会社を選ぶ、というスタンスには変わりありません。

それでは今週もご自愛ください。

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