脱炭素化を加速する”タックス・クレジット”

FT記事:Middlemen gain in rush for US green tax creditsより

グリーン・エネルギー業界に資金を流入させるには?

バイデン政権が打ち出したのはインフレ抑制法(IRA)を通じた税額控除、いわゆるタックス・クレジットです。

アメリカではこのタックス・クレジットそのものが売買対象となり、様々なプレイヤーが一気に業界に参入している様子。これの面白い所は、開発資金だけでなく、年間生産量にも紐づいて、各年で税額控除枠が発生する点。これって旨みがありすぎじゃないですか!

そして、いまやプロジェクト公正価値の半分相当の税額控除を受けられる。これは凄まじいインパクトですね。

脱炭素というテーマで再生エネルギーを語る場合には欧州の話題が多かったかと思いますが、ここから北米のエネルギー転換が一気に進むかも?という話題を取り上げます。


記事より

バイデン政権によるクリーン・エネルギーへの3700億ドルの補助金パッケージで、グリーン・タックスクレジットが初めて公開市場で売買できることになり、コンサルタント、弁護士、ブローカーの活動を活発化させている。

クリーンエネルギー金融のベテランによれば、インフレ抑制法に含まれる奨励金の画期的な仕組みは、その前代未聞の規模と同じくらい重要で、新しい資金源と、仲介業者に多くの機会をもたらす可能性がある。すでに起業家たちはすでに、この法案を利用してタックス・クレジットの取引プラットフォームなどの新商品を画策している。

もはやIRAタックス・クレジットの最初の売却がいつ行われてもおかしくないと、弁護士やコンサルタントはFTに語る。「まさに今が市場が立ち上がる時でしょう。皆が立ち上げに熱中しています」とコンサルティング会社EYのアメリカ大陸における再生可能エネルギーのリーダーであるグレッグ・マトロック氏は語る。「これは多方面で急成長している産業です」。

IRAは、エネルギー転換のための最大の支援策であり、グリーンテクノロジーのサプライチェーンの奥深くまで政府の大盤振る舞いを広げ、ヨーロッパでは大規模な投資を米国に引き抜かれるのではないかという懸念が広がっている。

(中略)

IRAは、水素、再生可能ガス、特にバッテリー製造などの新興セクターに資本を流入させることを目的としている。バイデン政権は、世界のクリーンエネルギー競争において中国と競合し、気候変動に対処するためにアメリカ経済を脱炭素化しようとしており、これらの新技術は不可欠と考えられている。

30%の投資税額控除に加え、特定の開発者が賃金要件を満たす場合や、化石燃料の採掘跡地にプロジェクトを設置する場合、さらなる税額控除が可能である。Vinson & Elkins社の弁護士によると、この税額控除を積み重ねると、プロジェクトの公正価値の50%に相当し、開発者が負担したコストの60~65%にもなるという。初期の段階では、税制投資家は1ドルの税額控除を約90セントで買うことができると言われていた。

IRAはまた、太陽エネルギープロジェクトの開発者が、初期投資額ではなく年間生産量に基づいて税額控除を受けられるようにした。「Vinson & Elkinsの取引弁護士Mike Joyce氏は、「大きな小切手を発行できる税制上の投資家は限られています。「IRAは、このような資金難を解消してくれたのです」。弁護士やコンサルタントは、この法律が成立して以来、仕事が大幅に増え、新しい金融構造が開発され、税額控除の買い手と売り手がデューデリジェンス作業を必要とするようになると、さらに増えるだろうと述べた。

(中略)

IRAは、新しい種類の保険商品にも機会を与えている、と仲介業者であるCACスペシャリティの税務保険業務リーダー、ジョーダン・タムチンは言う。タムチン氏は、税額控除の計算には主観が入りやすいため、内国歳入庁が監査でその一部または全部を取り上げる可能性があるという。

ベーカー・ボッツのヒンクリー弁護士は、「米国財務省が税額控除の移転やその他の規定に関するガイダンスを公表しているため、この法律の施行にはかなりの不確実性が残されている」と述べています。そして従来のタックス・エクイティーの仕組みがしばらくは主流となり、クレジットの売却は端境期に行われることになるだろうという。それにも関わらず、このIRAがきっかけとなり、その動きは急速に活発化すると予測する。


日本人にはいまひとつピンとこない税額控除ですが、実は社会貢献に関連する献金などにも大きな影響を及ぼす、お金の流れを変える”加速器”的性格を持ちます。そしてバイデン政権では脱炭素化を目的とする、北米のインフラ投資をアクセル全開に踏んできた。

これまでの欧州寄りの話題であった脱炭素化が北米でもついに?大きな潮流として注目されていきそうです。

それでは今週もご自愛ください。

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